2021年12月01日号
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artscapeレビュー

遠藤一郎公開ライブペイント(「遠藤一郎 展──ART for LIVE 生命の道」)

2013年05月01日号

会期:2013/03/03~2013/04/14

原爆の図丸木美術館[東京都]

遠藤一郎のライヴ・ペインティングは、ともかくミニマル。そして、あえていえば「レディ・メイド」的だ。原爆の図丸木美術館の部屋一面に白い紙を敷き、遠藤は容器から明るいピンクのアクリル絵の具を取り出すと、何色も混ぜることなく、そのまま床に塗り始めた。ピンクが終わり、今度は黒。紙の真ん中に円を描き、塗りつぶす。次は黄色を取り出し、やはりどんな色も混ぜずに、ピンクが地面なら、空に相当しそうな面を黄色くした。パフォーマンスは淡々と進む。特徴的なのは、遠藤が終始「はっ、はっ、」と息を漏らしながらペイントしていることで、必要以上の緊張なり、集中なり、興奮なりが彼のなかで渦を巻いている、そう思わされる。大袈裟ともとれる息づかいとは対照的に、紙の上で展開されているものはとてもシンプルで、なんと形容しよう、ただただ「ぽかーん」としているのだ。そこに、巨大な赤い文字で、紙の左側に「泣」が、右側に「笑」が書き込まれた。これまたシンプル、ニュアンスや含意をほとんどまったく与えないただの2文字だ。遠藤はいつも、まるでマルセル・デュシャンがそうであるように、デフォルメを施さないままの、他人の手垢がべったりついた既成のものを用いる。作家の審美的個性はそれによって極限まで抑えられている。「泣」と1文字書いた途端に「く」と「な」が続く?と予想したのだが、そうした東日本大震災にまつわる類の連想を裏切り、より大きなスケールのイメージが「笑」の文字によってあらわれて、驚いた。これは人間をきわめて遠くの視点から俯瞰して見ている者の言葉だと思った。なるほど、遠藤の最近の活動に、日本列島をキャンバスに「ARIGATO」や「いっせーのーせ」の文字を書くというものがあるが、Googleを使ったあれも、宇宙からというきわめて遠くの視点から見た地球に映る文字である。彼のパフォーマンスというのは、書道家の実演パフォーマンスや、大道芸の脇で似顔絵を描く行為などと同類だと思われがちかもしれない。けれども、どこか決定的に違っていて、やはり「アート」という呼称でもあてがうほかないところがある。とはいえそれは、既存の前衛芸術系のパフォーマンスのあれやこれやともやはり相当に異なる。生命を描写するに相応しい遠藤の熱意(「はっ、はっ、」)がまずあって、その熱意がパフォーマンスの場を通過したその証しとして、なんともいえない「ぽかーん」とした空虚な痕跡を残す。その淋しいような、孤独なような、明るい色が多いのになんだか暗いその闇夜のような手触り。これこそ、遠藤一郎らしいなにかのように思うのだ。

2013/04/13(土)(木村覚)

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