artscapeレビュー
記憶写真展─お父さんの撮った写真、面白いものが写ってますね
2013年05月01日号
会期:2013/02/16~2013/03/24
目黒区美術館[東京都]
いわゆる市井の人びとによる写真展。目黒区めぐろ歴史資料館が所蔵する目黒とその近辺で撮影された写真、およそ200点が、「交通」や「工事中」、「都市と農村」などのセクションに分けて展示された。
写されているのは、主に1960年代の目黒の街並みや人びと。アマチュア・カメラマンによる写真だから、とりわけアーティスティックというわけではないが、昭和30年代の古きよき時代を感じ取ることができる清々しい写真が多い。質実剛健と言えばそうなのかもしれない。だが、それより深く印象づけられるのは、彼らがシャッターを切る前に、その対象を写真に残そうと思い至った心の躍動感である。
一見すると日常の何気ない風景を撮影した写真のように見えるが、よく見るとそれらの根底には撮影者にとっての新鮮な驚きや発見があることがわかる。工事によって激変する目黒駅や碑文谷八幡神社の例祭、あるいは大雨や大雪にみまわれた街などの写真の奥に、「あっ、撮りたい!」という純粋な欲望が垣間見えるのだ。本展で展示された写真に漂う清々しさは、写された風景に思わず感じ取ってしまう私たち自身の懐古趣味などではなく、撮影者が写真に向き合う実直な態度に由来しているのではないだろうか。
有名性を求める芸術写真に対する、無名性によって成り立つ限界芸術としての写真。これまでの写真批評や写真史研究は、これを検討の対象から外してきた。しかし、誰もがカメラを日常的に持ち歩き、誰もが撮影者でありうる現在、これを内側に含めない写真批評や写真史研究にどれだけのアクチュアリティーがあるのだろうか。これは純粋な疑問である。
2013/03/22(金)(福住廉)