2021年09月15日号
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artscapeレビュー

二川幸夫・建築写真の原点 日本の民家一九五五年

2013年05月01日号

会期:2013/01/12~2013/03/24

パナソニック 汐留ミュージアム[東京都]

建築写真家・二川幸夫の回顧展。1957年から59年にかけて発行された『日本の民家』に掲載した二川のモノクロ写真から選び出した70点と、関連する資料を併せて展示が構成された。
展示を見てまざまざと理解できるのは、一口に「民家」と言っても、その内実はじつにさまざまだということ。民家の建材や全体的なフォルムはもちろん、屋根の形状や柱の組み方、さらには民家と民家のあいだの距離感や路地の動線にいたるまで、文字どおり多種多様な民家のありようが、面白い。しかも、二川の写真には民家の造形的な美しさだけでなく、その土地土地の風土に適したそれぞれの合理性が表われているところが、すばらしい。
おそらく、「民家」にさまざまな民家があるように、「日本」にもさまざまな日本がある。それを無理やり十把一絡げに共通の規格によって塗りつぶしてきたのが、近代化の歴史だった。どこに行っても同じような建売住宅が建ち並び、どこの駅で降りても同じような駅前広場が広がる現在の建築風景は、その結果にほかならない。むろん、そのことによって暮らしの利便性が高まったことは事実だが、同時に、その暮らしを支えているテクノロジーや知性に大きな疑いが生じてしまったいま、これ以上「近代」を信奉することはできないという限界に、じつは多くの人びとは気がついているのではないか。
二川が撮影のために訪れた集落で、当初は「とても見せられるものではない」と撮影を断られたというエピソードがある。しかし、共同体の内部にとって美しくはないものが、外部にとっては美しいということは十分にありうる。二川の写真の今日的なアクチュアリティーが、私たちの想像力を「近代」とは別の針路に押し進めることにあるとすれば、それを強力に担保するのは、近代文明への危機感というより、むしろ二川の写真のなかに見出すことができる美しさだろう。

2013/03/22(金)(福住廉)

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