artscapeレビュー

遠藤一郎 展 ART for LIVE 生命の道

2013年05月01日号

会期:2013/03/03~2013/04/14

原爆の図丸木美術館[埼玉県]

遠藤一郎の最高傑作は、やはり《愛と平和と未来のために》だと思う。この映像作品で遠藤は「行くぞー!」と雄叫びを上げながら、ただひとり、六本木ヒルズに全身で激突する行為を繰り返しているが、これはナンセンスを突き詰めることによって辛うじてわずかな意味を生み出そうとする、すぐれてコンセプチュアルなパフォーマンスだった。しかも、コンセプチュアル・アートにありがちな肉体性の欠如という弱点を、文字どおり肉体を酷使することによって見事に克服している点が、何よりすばらしい。
言うまでもなく、遠藤がそのようにして生み出したわずかな意味とは、彼が執拗に訴え続けている「未来」や「生命」、「愛」、「平和」というメッセージである。むろん、それらは字義どおりに受け取ることが難しいほどベタな言葉ではある。けれども、そのような使い古された言葉の根底にあの激烈な激突パフォーマンスを見通すとすれば、それらはたんなる愚直でストレートなメッセージではなくなるはずだ。
本展は、丸木美術館で催された遠藤一郎の回顧展。自転車で原爆ドームに向かった17歳のひとり旅を原点として、その後の表現活動の軌跡を無数の記録写真によってたどる構成である。回顧展としては堅実であるし、あの広大な空間に掲げられた「生命」という文字を描いた巨大な平面作品も見応えはある。けれども、どこかで一抹の違和感が残るのは、遠藤一郎にとっての原点のありかが、「広島」というよりやはり「六本木」なのではないかと思えてならないからだ。
あの肉体の突撃には、ナンセンスなユーモアだけでなく、切実な危機意識とやるせない悲壮感があった。それらは現在の遠藤一郎の明るく、朗らかで、ポジティヴな表現活動からは見えにくいものだが、しかし、その背面に確かに内在しているものだ。
遠藤一郎の活動範囲が被災地を含む全国へ拡大すればするほど、そのダイレクトなメッセージが人びとに伝播すればするほど、まるで反射作用のように、その原点のありかが逆に問い直されるに違いない。もしかしたら、新たな原点をつくりだすことが必要なのではないか。

2013/04/10(水)(福住廉)

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