artscapeレビュー
鈴木ユキオ+金魚『Waltz』
2013年09月01日号
会期:2013/08/08~2013/08/10
シアタートラム[東京都]
鈴木ユキオのダンスを観ると、「彫刻」の文字が頭に浮かぶ。時間芸術のダンスとは異なり、彫刻はもっぱら空間芸術。だけれど、鈴木のダンスはまるで彫刻のように造形的精神に溢れていて、時間(身体の動き)をとおして造形物を拵えているかのように見えるのだ。だとすると問題になるのは彫刻の自律的性格だ。彫刻に見えるというのは、それぞれのダンサーがそれ自体の質をきちんと保持し、各自が単体で高まっている状態を目指しているということだろう。そうすることで密度の濃い、見応えのある身体が立ちあがってくるのは事実。ただし、自己完結している各ダンサーの動きは、ソロや群舞には向いているのかも知れないけれど、互いの呼吸を感じながらするデュエットには向いていないかも知れない。それぞれがちょっとずつ閉じた自己を開いてはじめて、すなわち即興の要素が際立ってきてはじめて、デュエットはその面白さを発揮するはずだ。タイトルにある「Waltz(ワルツ)」には、そうした思いが込められているのではないだろうか。ただし、上記した意味での「ワルツ」を見たという気持ちにはならなかった。終盤に、鈴木が安次嶺菜緒と踊るところでは、デュエットが試みられていた。それまでそれぞれの内部で完結していた身体がほぐれようとしていた。手と手を握り合い、互いを感じながら踊るという次元に至る予感はあった。けれども、2人の目指すデュエットは予感以上のなにかとして実体化されはしなかった。ただし、それこそが今後の課題だと鈴木自身が思っているのならば、彫刻状態の2人が解体しながら再構築を試み、再構築のプロセスさえ解体を含んで進む、そんなワルツの誕生を期待したくなる。
2013/08/10(土)(木村覚)