artscapeレビュー
吉永マサユキ「I’m sorry」
2013年09月01日号
会期:2013/07/16~2013/07/28
写真家の吉永マサユキによる「夫婦喧嘩」を主題にした写真展。実在する夫婦を被写体にして、家庭を顧みないダメな旦那を屈強な嫁が懲らしめるという設定で演出したようだ。タイトルの「I’m sorry」とは、だから旦那による心の叫びだろう。
モノクロ写真で展示された26点の作品は、いずれも面白い。ジャージ姿の嫁がパンチパーマの旦那に馬乗りになって首を絞めたり、掃除機で頭を叩いたり、文字にするとひどく暴力的だが、じっさいの写真は、思わず松本人志のコント「ミックス」を連想してしまったほど、可笑しみがあるのだ。
このユーモアが、畳とタンス、磨硝子などで構成される庶民の生活空間に由来するのか、あるいは彼らのそれぞれが際立ったキャラに起因しているのか、わからない。けれども、それが彼らの諍いの根底にあるはずの愛情がなせる業なのだろうと想像させることは間違いない。
これらの写真は、およそ20年前に撮影されており、吉永にとってのルーツとされているらしい。暴走族であろうとゴスロリであろうと何であろうと、吉永の写真には被写体と正面から向き合う誠実さが感じられるが、そこでは写真を撮る当人にとっても撮られる被写体にとっても見る私たちにとっても「肯定」になりうる写真が目指されているように思えてならない。これは単純なようでいて、じつはもっとも難しい、写真の大きな力ではないか。
2013/07/26(金)(福住廉)