2021年12月01日号
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artscapeレビュー

レイ・リケット バッグ展──BAG, ALL RIGHT!(バッグ、オーライ!)

2013年09月01日号

会期:2013/07/17~2013/08/25

世田谷文化生活情報センター:生活工房[東京都]

ビジネス向けのバッグには、機能にフォーカスしたものが多い。ここにはケータイ。ここには財布。ここに手帖とペン。ここにファイル。ここに新聞とビジネス誌……。分類性と使い勝手の良さが最大限にアピールされる。これに対して女性が結婚式やパーティの場で持つバッグはなんなのだろう。ほとんど何も入らない小さなバッグ。はたしてあれをわざわざ持つ必要はあるのだろうか、ということは機能主義者にとっての積年の謎なのである。実際のところ、あれはアクセサリーである。ネックレスやピアス、ブレスレットと同様に、手元を飾る装飾品なのである。進化の過程で何かを入れて運ぶという機能の名残はあるものの、何かを入れるという視点で選ばれることはない、バッグに似た何かなのである。とはいえ、機能性で選ばれると考えられるビジネスバッグも「できる俺」を演出するための小道具であったりもする。バッグは機能と装飾とのあいだでつねにバランスを取りながらデザインされ、消費されているのだ。
 バッグ作家レイ・リケットのバッグは、機能や装飾をさらに突き抜けたところにある。コンセプトは「ハンカチとお財布が入るアート」。持ち手があり、蓋をあければ収納スペースがあるので、バッグとしての条件は満たしている。しかし、「こういうバッグが欲しかったの」といって巡り会うバッグとは思えない。たとえば、世界旅行をテーマにしたバッグのひとつはナイアガラの滝。大瀑布が青い色のビーズで表わされている。蓋にピラミッド、ロックがファラオのヒゲになっているエジプト観光のバッグもある。氷山とシロクマが載ったバッグの蓋から溢れる海水は地球温暖化をイメージしているのだろうか。金色のバッグに赤い花びらがしつらえてあると思ったら、じつはカルビ肉の韓国焼き肉バッグであったり。名画シリーズで秀逸なのは、岸田劉生の《麗子像》の頭部をモチーフにしたバッグだろう。持ち方によっては普通の黒い丸いバッグに見えるが、くるりと向きを変えると「でろり」とした麗子の顔が現われる。反原発をテーマにしたバッグのシニカルなデザインもすばらしい。ファッションモデルのようなポーズの女性の姿がトートに刺繍されているが、彼女がまとっているのは放射能防護服とマスク。あるいはヨーロッパ各国の言葉が刺繍されたバッグがある。一見したところはただのお洒落なデザインのバッグなのだが、よく見るとそこに書かれているのは原発撤廃や民族差別反対、資本主義風刺のメッセージである。たいていのアートは、それが展示されている場に行かなければ見ることができないが、彼女のバッグは「持ち運べるアート」。もちろんあくまでもバッグなので、街にも、電車の中にも、カフェにも持って出かけることができる。それでいながらメッセージをユーモアに包んでさりげなく、かつ効果的に伝えるコミュニケーション装置でもあるのだ。[新川徳彦]

2013/08/24(土)(SYNK)

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