artscapeレビュー

マームとジプシー『cocoon』

2013年09月01日号

会期:2013/08/05~2013/08/18

東京芸術劇場シアターイースト[東京都]

漫画家・今日マチ子の同名作品を原作にした本作は、第二次世界大戦、沖縄のひめゆり学徒隊の悲劇をモチーフにしている。女子学生たちを一人一人紹介する前半は、明るくて前向きな女の子たちが描かれる。当時のひとのあり様を丁寧に描かない分、現代の10代がそのままタイムスリップし、戦争に巻き込まれているかのような演出になっていた。これは今日の漫画を踏襲した結果でもあろう。今日の漫画では、兵士など男たちは白い輪郭だけで描かれた。それは少女時代の「潔癖さ」故に今日が「男性の存在がないようにふるまっていた」ことに由来するという。なるほど、戦争を描くのみならずここにあるのは、そうした同性のみの世界(女子校的世界)の姿であり、同性のみの世界がつくり出す独特のファンタジーが「繭(コクーン/cocoon)」という言葉で伝えたい内実を示してもいる。同性のみで完結するこの閉じた世界が、後半、戦争の惨劇に巻き込まれていく。手榴弾で自爆したり、治療の手助けをした男にレイプされるなどのエピソードもショッキングだが、そうした出来事を、猛烈な勢いで舞台を駈け回る役者たちによって描いたのは圧巻だった。マームとジプシー独特の何度も角度を変えながら場面を反復するスタイルが、執拗に繰り返されると、舞台上の華奢な役者たちは本当に身体的に疲弊し、その様が戦場の恐ろしさにリアリティを与える。ただし、この現代の少女たちがタイムスリップしたように見える演出は戦争をイメージするのに十分効果的だったのか、この点は疑念に思った。ちょうど同じタイミングで上映されている宮崎駿のアニメーション『風立ちぬ』も戦争の時代を描いていたが、宮崎は当時の人間の心模様をとらえようと試みていた。戦争中の人々は、戦争のことや自分の思いについて寡黙だった(亡くなった祖母や祖父などをとおしてぼくもその感じをかろうじて知っている)。無邪気になんでも口にできるわけではなかった。宮崎の描いた寡黙さは、当時の戦争を的確に伝えていた。対して『cocoon』の少女たちは饒舌だ。しかし、この饒舌さを封殺してしまうものこそ戦争ではないか。そしてまた別の話だけれど、現代の少女が将来、最悪の進路を世界が進むとき、その果てで経験する戦争は、おそらく70年前とは異なる戦争だろう。いまの時点でも自爆テロや兵器の遠隔操作をぼくたちは知っている。ぼくたちは歴史を忘れずにいるのみならず、いや歴史的事象を悲劇として鑑賞するくらいなら、むしろ未来のありうる悲劇を正確にイメージしておくべきかも知れない。

2013/08/08(木)(木村覚)

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