artscapeレビュー
村田兼一「少女観音」
2014年07月15日号
会期:2014/05/30~2014/06/15
神保町画廊[東京都]
村田兼一はやはりただ者ではない。1990年代以来、彼は自宅でもある大阪市郊外の旧家をスタジオに改装し、女性モデルたちとともに耽美的なヌード・フォトを制作し続けてきた。これだけ長く続けていると、手法や発想が固定化して、マンネリに陥りがちになる。ところが、村田はその危機を巧みに回避しつつ、あの手この手で新たなシリーズを作り続けてきた。今回の「少女観音」のシリーズも、いかにも村田らしい遊び心にあふれる作品に仕上がっている。
聖なる存在にエロス的な感情を注いで崇拝することは、古今東西広く行なわれてきた。キリスト教の世界では、聖マリアがその役目を果たすことが多い。日本でも女身の姿をとる観音仏がエロスの受け皿になってきた。村田はそのような伝統的な枠組を逆手にとり、「少女観音」というトリッキーな仕掛けを編み出した。恐るべき淫らなポーズをとる少女たちを仏像に見立てることで、ちょっと困ってしまうほどに目覚ましく、魅力的な視覚的エンターテインメントが成立している。
このシリーズ、まだ発展していく余地がありそうだ。安倍文殊院の文殊菩薩と善財童子の姿かたちをそのまま借用した作品もあるが、多くはそれらしい思いつきのポーズで写されている。もう少し厳密に仏像のイコノロジーを適用した方がいいかもしれない。また、フレーミングや会場のレイアウトも、もっと凝ってもよさそうだ。また掛け軸、金屏風、装飾的なフレームなどを効果的に使い、和風のテイストを強調することで、よりキッチュでアイロニックな雰囲気が強まるのではないだろうか。
2014/06/01(日)(飯沢耕太郎)