artscapeレビュー

あしたのジョー、の時代展

2014年09月01日号

会期:2014/07/20~2014/09/21

練馬区立美術館[東京都]

漫画やアニメで知られる『あしたのジョー』の展覧会。高森朝雄とちばてつやの詳細なプロフィールに始まり、貴重な原画、アニメ版のセル画や動画、関連商品の数々など、リアルタイムで楽しんでいたファンならずとも、『あしたのジョー』の世界を存分に堪能できる内容だ。
ただ、この展覧会の醍醐味は、タイトルの後半にある。すなわち「あしたのジョー、の時代」とあるように、会場の後半は漫画が連載されていた60年代後半から70年代前半にかけての美術や映画、舞台デザイン、広告などが展示されているのだ。横尾忠則による天井桟敷のポスターはもちろん、篠原有司男の《モーターサイクル・ママ》、平田実や羽永光利によって撮影された反芸術パフォーマンスの数々、高田渡や岡林信康らのレコード、CM「男は黙ってサッポロビール」などが立ち並ぶ会場には、あの時代の濃い空気が満ちている。
『あしたのジョー』の大きな特徴は、よど号をハイジャックした赤軍派が「われわれは明日のジョーである」という声明を出したように、漫画でありながらも漫画を超えた広がりを持ち、そのことによって時代を象徴する文化になりえたことである。今改めて漫画『あしたのジョー』を読んでみると、貧困からの脱出、身体と身体の激突による生の実感、栄光と転落、亡霊との格闘など、いまの時代にはあまり望めない濃厚なリアリティが充満しているのがわかる。
とりわけ注目したいのが、矢吹丈と丹下段平の言葉の応酬だ。下町の汚い言葉で激しく言い合う2人は、ボクサーとセコンドという立場でありながら、つねに同調するより反発し合っていた。ジョーは、もしかしたら一度たりとも段平の助言を受け入れなかったのではないか。ジョーと段平は、いわばリングの外でも拳を交えて殴り合っていたのだ。
だとすれば、本展の意義は漫画と美術の幸福な結合などにあるのではない。それは、むしろ予定調和と慣れ合いが跋扈する現代アートの現状に加えられた激烈な一撃と言うべきだ。あしたのために、われわれはもっと闘わなければならない。

2014/08/01(金)(福住廉)

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