2021年09月15日号
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artscapeレビュー

拡張するファッション

2014年09月01日号

会期:2014/06/14~2014/09/23

猪熊弦一郎現代美術館[香川県]

ファッション・ジャーナリスト、林央子の同名の著書(スペースシャワーネットワーク、2011)をもとにした展覧会が、水戸芸術館現代美術ギャラリーに引き続き開催された。ファッションの展覧会には違いないが、会場で出会うのはマネキンに着せ付けられた歴史的な衣装でもブランドのハイ・ファッションでもない。アーティストたちが表現者や作り手として日頃なにを感じ考えているのか、それらを可視化した作品が展示されている。参加アーティストは、コズミックワンダーの前田征紀やBLESSの小金沢健人、長島有里枝やホンマタカシ、スーザン・チャンチオロや青木陵子をはじめ、ファッションデザイナー、グラフィックデザイナー、写真家、現代美術家らおよそ10名である。展覧会は、「DIYメディア──実験的な制作精神」、「古さ、遅さといった価値観の見直し──服と人との幸福な関係」「新しい想像力との出会い──ファッション=デザインの枠組みの無効化」など、七つのテーマで構成されている。これらのテーマにも、本展が既存のファッションの枠を破ろうとする挑戦的な試みであることが表明されている。
1990年代にみられたファッションと現代美術の二つの領域の接近は、ファッションに自己批判的な視点を与えると同時にファッションを難解で近寄りがたいものにした。2000年代に入って台頭著しいSPAファッションの陰にすっかり息を潜めていたかに見えたこの動きは、ここにきて少々意外な方向へと発展していたようである。その傾向を一括することはできないが、本展での印象をひとことで言えば「繊細で内向的」といったところだろうか。例えば、横尾香央留の《お直し──karstula》は、作家がフィンランドの小さな街に滞在し、現地の人々から募った衣服に持ち主から感じた印象や彼らの話をもとにお直しを施した作品である。また、FORM ON WORDSの《ファッションの図書館[丸亀]》は、収集した古着にそれぞれにまつわるエピソードを文字にして転写した作品である。いずれも、衣服を着るという経験を介して個人の内面を掘り下げることによって成立した作品である。そして、衣服に加えられた作家の手は、その経験がいかに些細なものであっても大切に壊れもののように扱っている。
鑑賞者は、服を着るという日常的な行為をあらためて考えさせられる。とはいえ、これといった答えは見つからなくとも、その営みは日々坦々と続いていくのである。[平光睦子]

2014/07/27(日)(SYNK)

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