artscapeレビュー
川口隆夫『Slow Body 脳は感覚を持たない』
2014年09月01日号
JKダンスアトリエ、千駄ヶ谷・nagase[東京都]
川口隆夫からFacebookにメッセージが届いた。8月6日の夜のこと。そこにはヌードデッサン会の案内とともに次の言葉が添えられていた。「今ほど人体を見つめることが必要なときはない。/穴が開くほど、直視せよ!/目の前の人体を見て、そこにある感覚を自分の体に直結させる試み。/スケッチブック持参でぜひスケッチしてくれ。/(簡単な紙と鉛筆くらいなら用意できるかもしれない)」言葉に熱を感じた。文面から察するに、この会はかなりのハイペースで立て続けに開催される予定のようだ。「(人体を)直視せよ!」のメッセージには、昨今のろくでなし子の騒動やこのメールの数日後に起きた鷹野隆大の騒動が象徴する社会の暗さと対峙する、川口の思いが透けて見えた。ただ驚いたのはそれだけではなかった。メールの届いた2日後に、演出家の篠田千明も『機劇』(Bプロ)でヌードデッサン会を行なう予定なのだ。なんというシンクロニシティ。初回は見られなかったものの、8日の篠田の上演を見た翌日(8月9日)、第2回の「デッサン会」を見た。「見た」というか描いた。描きつつ見た。黒いシンプルな椅子に足を掛けて寝そべった川口の裸体を、白い紙に描く。肩、ふくらはぎ、筋肉のふくらみと骨の出っ張り、気になるところが出てくる。全体の一部として各部位は機能しているのだなと気づくと、バランスに意識が及ぶ。そんなことを思っていると、始まって3分くらいで突如川口はゆっくりと動き始めた(篠田のモデルはポーズをとって動かなかった。篠田が「デッサン会」を上演することに重点があったのに対して、川口は観客が人体と向き合うことを重視していた)。ああ、さっきの形が消えてしまった! 追いかけて次の形を掴まえようとするが、さらに新たな形がそれを消してゆく。デッサンする行為はただ見る際には気づかない肉体の有様を気づかせてくれる。けれども、その代わりに、時間をかけて一瞬のポーズを捕らえようとするから、動く身体にいつも遅れをとってしまう。あきらめてしばらく見ることに徹する。すると、見ることは描くことよりも柔軟に動きを掴まえ、味わっていることがわかる。デッサンが記録の一手段ならば、写真や動画はこれとどう異なるのだろう、などと思考が遊び始めたあたりで20分超の上演は終わった。8月16日の会にも足を運んだ。この回は千駄ヶ谷の美容室が恒例行事としている神宮外苑花火大会の鑑賞会のなかで行なわれた。約1時間弱。デッサンしながら、ときどき手を止めてじっと見つめながら、動く身体に向き合う。するとその実存が迫ってくる。そこにひとつの体があることにじんわりと感動する。会の終了後に、川口を囲んでデッサンの見せ合いが自然と始まった。観客が作り手となり川口が観客となる、主客の逆転が起きていて面白かった。この仕組みは自然と観客の主体性を引き出す。観客も表現したい! そんな欲求を引き出し解き放つのだ。川口は100回の上演を目指しているという。この仕組みからどんな出来事が生まれるのかは100回分の可能性があるはずだ。今後も追いかけてみようと思う。
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8月16日には川口隆夫と篠田千明にこの「デッサン会」をめぐって話を聞かせてもらった。BONUS〈スペシャル・イシュー〉にて公開しているので、あわせてご覧下さい。
ダンスにおける保存と再生 第2弾:篠田千明/川口隆夫インタビュー「デッサン会という方法」
2014/08/09(土),2014/08/16(土)(木村覚)