2019年12月01日号
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artscapeレビュー

奥誠之 展「南洋のライ」

2014年09月01日号

会期:2014/07/04~2014/08/17

ya-gins[群馬県]

「ライ」とはミクロネシア諸島のヤップ島で1930年頃まで用いられていた石貨。直径1.5メートルから大きなもので3メートルのものもあるという。その機能は、日常的に使用する貨幣というより、冠婚葬祭などの贈答品で、その価値は石の大小というより、製造過程における労苦の大小に左右されていたという。この石貨をつくるのがいかに大変だったか、どれほど苦労して運搬したかを、とうとうと語る話術がその価値を決定していたのだ。
1925年、東京の日比谷公園にヤップ島からライが寄贈された。当時のヤップ島はすでに日本帝国の支配下にあり、ライを本土に送ったヤップ島支庁長が、奥誠之の曽祖父だった。奥は、この曽祖父についてのインタビューを親族に行ない、それらの文言を会場の白い壁面に鉛筆で書き記した。来場者は、練りゴムでこれらの文字群を消すよう促されるが、奥はその消しカスをすべてていねいに練り集めて石貨の形状に整えた。つまり練りカスでできた小さな石貨の中にはインタビューで収録したさまざまな声が練りこまれていることになる。
訪れた日は最終日だったこともあり、壁面の言葉はほとんど消し去られていた。だから曽祖父についての描写や記述の詳細はわからない。けれども、白い壁面に残された黒ずんだ痕跡は、そこに記述された言葉が練カス石貨というモノに転位した事実を如実に物語っていた。本展企画者の小野田藍は言う。「使用済みのゴムを石貨のかたちにしてゆく作業は、実際の石貨が来歴によって価値を太らせていくプロセスをシミュレートした行為である」。
さらに付け加えれば、奥のシミュレーションはアートの本質も突いている。つまり、モノの価値を決定するのは、モノそのものではなく、モノに付随する言葉や意味である。この図式に、作品と言説の関係性がそのまま該当することは明らかだろう。批評やステイトメント、議論、あるいは鑑定書といった言説空間の拡充は、だからこそ重要なのだ。
その意味で、本展企画者でアーティストの小野田藍が発行している『ART NOW JAPAN』の意義は、とてつもなく大きい。A4両面に手書きで書かれた、おそらく日本でもっとも簡素な批評誌で、特定の1人のアーティストについて小野田自身が2,000字前後で執筆している。「日本のアーティスト100人」というサブタイトルが付けられているように、100号の発行を当面の目標としているようだが、奥についての最新号で35号。今後、前橋という地方都市から発信される貴重な批評空間に注目したい。




『ART NOW JAPAN』

2014/08/17(日)(福住廉)

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