2021年10月15日号
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artscapeレビュー

プラハ国立美術工芸博物館所蔵:耀きの静と動──ボヘミアン・グラス

2014年09月01日号

会期:2014/08/02~2014/09/28

サントリー美術館[東京都]

ヴェネツィアと並ぶヨーロッパのガラス産地であるボヘミア(現在のチェコ共和国西部・中部地方)のガラス工芸の歴史を、プラハ国立美術工芸博物館の所蔵品170点でたどる展覧会。ヴェネツィアでガラス生産が始まったのは10世紀頃。ボヘミアではそれよりもずっと遅れて13世紀頃からガラス生産が見られるようになる。本格的な生産が始まるのは14世紀から15世紀のことだという。展示はその歴史を時系列に七つの章で構成している。
 第1章は中世。この時代にはビーカーやゴブレットなど、深さのある器(ホローウェア)がつくられていた。第2章はルネサンスとマニエリスム。16世紀半ばからは器形が多様化。装飾ではエナメル絵付けとエングレーヴィングが行なわれるようになる。第3章はバロックとロココ。17世紀半ばに透明度の高いカリ石灰ガラスが開発され、カットとエングレーヴィングによる上質な無色透明の器の生産が拡大し、ボヘミアン・グラスの絶頂期を迎える。生産の拡大はまた多様な装飾方法の発達をも促した。第4章は19世紀前半から半ば過ぎまで。古典主義の流行から市民階層の台頭でビーダーマイヤー様式が出現。色ガラスが流行を見せる。第5章は歴史主義の時代。19世紀後半にはガラス教育機関が設立され技術発展に影響を与えると同時に、デザイン的には歴史的な様式から着想を得て質を高める動きが見られる。第6章は世紀転換期から第二次世界大戦まで。アール・ヌーボー、アール・デコ様式を経て、戦間期には機能主義的なシンプルなデザインのガラス器がつくられる。1918年、チェコスロバキア独立後は教育が強化され、それが戦後のチェコ・ガラス隆盛の基礎をつくることになる。第7章は第二次世界大戦後以降。チェコのガラス工芸はその教育制度の充実もあり、商業の分野でもアートの分野でも高い水準を保ち続けている。
 全体を通して見えるのは、政治体制や社会構造の変化の影響と、他地域からの職人や技術の流入、模倣と差別化による発展の歴史的経緯である。ボヘミア地方の経済的発展はガラス器だけではなく窓ガラスの需要も高める。ハプスブルグ家の支配はイタリア・ルネサンスの文化をもたらした。時代は下って18世紀末の保護貿易の時代には、外国から手本となる製品が入手できなくなったためにガラス産業の対外的競争力が低下したという指摘はとても興味深い。19世紀には富裕層が集まる保養地にガラス彫刻師たちが集まり、顧客の注文に応じてエングレーヴィングを施したという話も職人たちの優れたマーケティング活動の事例だろう。展示では現代のガラス作品にインパクトがある反面、アール・ヌーボー、アール・デコ期の作品が少ないのは個人的にはやや物足りない。たしかにアール・ヌーボーのガラスの中心はフランスであったかも知れないが、チェコの器にも優れた造形が多く見られる。またチェコスロバキア独立後に参加した1925年のパリ万博(アール・デコ博)では多数のガラス製品が賞を受けており、チェコ・ガラスにとって重要な時期であるはずだ。
 サントリー美術館ではたびたびガラスの展覧会が開催されており、展示ケース、照明の美しさには定評がある。本展示の構成も美しく、また個々の作品もとても見やすい。[新川徳彦]


展示風景

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2014/08/01(金)(SYNK)

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