artscapeレビュー

モザイク展2016「絵本」

2016年07月15日号

会期:2016/06/20~2016/06/25

オリエアート・ギャラリー[東京都]

「絵本」をテーマにしたモザイク展。モザイクも絵本も「絵」の一種だが、画像を載せる支持体がまるで違う。重厚でゴツゴツしていて物質感を主張するモザイクに対し、絵本は薄くて軽くて滑らかだ。あえて性質の異なる絵本というテーマを与えることで、モザイクの可能性を広げたいという思惑があるようだ。出品は13人(テーマ展示とは別に海外8作家の展示もある)で、よくあるパターンは「見開き」のように本を開いたかたちにしたもの。いちおう絵本に見えるけど、それだけでは工夫がない。橋村元弘の《わがはいはネコである》は、両面モザイクを真ん中に挟んで2見開きにしたもので、めくると猫の顔が現れ、目が変化する。少し進化した。戸祭玲子の《…?》は6枚のモザイク板を紐でつなげて綴じた作品。強引に本の形式に近づけた努力は買うが、かなり無理がある。一方、形式ではなく内容の面で本に接近する例もある。馬淵稔子の《死者の書(古代エジプトの)》は、「BOOK OF THE DEAD」の文字を埋め込み、本の表紙のようにした。絵とヒエログリフで死の世界への道行きを書いた「死者の書」は、究極の絵本かもしれない。岩田英雅の《タイルの町「水の都」》は、ビザンチン文化の栄えた水の都ヴェネツィアの歴史を、本という記憶装置に重ねて表現したものだろう。モザイクにも本にも縁の深い都市ヴェネツィアを選んだあたり、慧眼というほかない。

2016/06/22(水)(村田真)

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