artscapeレビュー
幻の海洋写真家・木滑龍夫の世界
2016年07月15日号
会期:2016/05/23~2016/06/04
表参道画廊[東京都]
表参道画廊ではここ3年ほど、5月~6月のこの時期に、「東京写真月間」にあわせて写真史家の金子隆一の企画による写真展を開催している。一昨年の大西茂、昨年の写真雑誌『白陽』の写真家たちに続いて、今年は北海道・小樽で写真家として活動した木滑龍夫(1897~1941)の作品が展示された。
木滑は東京・東大久保に生まれ、海軍除隊後、函館の汽船会社の社員となって、無線局長として船に乗り組んでいた。そのかたわらアマチュア写真家としても活動する。1939年に『アサヒカメラ』が主催した「海洋写真展覧会」で「激浪」が一等になり、一躍「海洋写真家」として名前が知られるようになった。その後も、写真展や写真雑誌上で作品を発表していたが、1941年に北千島に向かう途中で海難事故のために亡くなった。
残された1930年代のヴィンテージ・プリント20点を見ると、木滑が同時代のモダニズム=「新興写真」の美学に基づいて作品を制作していたことが明確に伝わってくる。船体の一部を斜めのアングルで切り取った作品や、街頭のスナップ写真、岩のクローズアップなどの造形意識は、まさに典型的な「新興写真」的なアプローチといってよいだろう。だが、彼のホームグラウンドというべき、逆巻き、砕ける波を船の甲板から写した数枚には、「新興写真」の枠組みにはおさまりきらない、ダイナミックな現実描写の方向性があらわれている。それらを見ていると、彼がもう少し写真の仕事を続けていけば、どうなったのだろうかと想像してみたくなる。「海洋写真」というユニークなジャンルを、さらに発展させていったのではないだろうか。
2016/06/04(土)(飯沢耕太郎)