artscapeレビュー
アート・アーカイヴ資料展XIV「鎌鼬美術館設立記念 KAMAITACHIとTASHIRO」
2016年07月15日号
会期:2016/06/01~2016/07/15
慶應義塾大学アート・スペース[東京都]
細江英公は1965年9月、舞踏家、土方巽をモデルとして秋田県羽後町田代で「鎌鼬」を撮影した。このシリーズは、1968年3月の銀座ニコンサロンでの個展「とてつもなく悲劇的な喜劇」に出品され、69年には田中一光のデザインで現代思潮社から写真集『鎌鼬』として刊行されて、細江の代表作のひとつとなった。それから50年あまりが過ぎたが、撮影の舞台となった田代の住人たちのなかには、わずか2日間あまりの土方との邂逅の記憶が深く刻みつけられているという。東北の農村に、土方はまさに折口信夫のいう「マレビト」として出現したのではないだろうか。
本展は、田代の旧長谷山邸が「里のミュージアム 鎌鼬美術館」として生まれ変わるのを期して、東京・三田の慶應義塾大学アート・スペースで開催された。細江撮影の「鎌鼬」のオリジナルプリントとコンタクトプリントに加えて、桜庭文男が現代の田代を撮影した「稲架(はさ)のある里/四季」、藤原峰のドローン空撮による映像作品、ポスターなどの関連資料が出品され、会場の一角には、細江の写真に印象深く写り込んでいる「稲架」も再現されていた。展示スペースがやや小さいのが残念だが、ひとつの写真シリーズが呼び起こした反響を、時代を超えて検証しようとする興味深い企画である。今後「鎌鼬美術館」の活動が展開していくなかで、さらに多様なコラボレーションが期待できるのではないだろうか。
なお、展覧会を主催した慶應義塾大学アート・センターは、土方巽のほかに、瀧口修造や西脇順三郎の関連資料も多数所蔵している。その一部を見せていただいたのだが、展示企画に結びつきそうな写真資料もかなりたくさんあった。ぜひ展覧会や出版物のかたちで、積極的に公開していってほしいものだ。
2016/06/08(水)(飯沢耕太郎)