artscapeレビュー
楢橋朝子「近づいては遠ざかる 1985/2015〈ベトナムの場合〉」
2016年07月15日号
会期:2016/06/21~2016/07/03
photographers’ gallery[東京都]
楢橋朝子は、以前同じタイトルの「近づいては遠ざかる 2009/1989」(東京アートミュージアム、2009)という個展を開催したことがある。そのときには、新作のドバイの写真(カラー)と旧作のスナップショット(モノクローム)を並置したのだが、今回も同じコンセプトを踏襲している。つまり、まだ学生だった1980年代半ばに「目を輝かせながらも少し恥ずかしそうにしている子どもたちや、朗らかでしたたかな人びとのエネルギーに惹きつけられて」ベトナムを3度にわたって訪ねたときの初々しい写真と、2015年に30年ぶりにホーチミン市を再訪した時の写真とが、交互に展示されているのだ。
同じ場所を、時を隔てて再び訪ねるというのは、写真家にとって興味深い経験なのではないだろうか。すっかり変わってしまった人や街の様子だけではなく、自分のものの見方の違いも確認できるからだ。今回の展示では、日付を入れて撮影された、素朴だが力強い1980年代の写真群(モノクローム)と、楢橋流にバイアスをかけて、やや斜めから距離をとって撮影された2015年のカラー・スナップの対比がもくろまれている。その狙いはうまく成功していて、近代化、資本主義化の急速な進行によって大きく変貌しつつある街の空気感が、ヴィヴィッドに伝わってきた。新作と旧作を同時に展示する「近づいては遠ざかる」のシリーズは、これから先も別なヴァージョンで続けていってほしいものだ。
なお、隣室のKULA PHOTO GALLERYでは、1985年にベトナムで撮影したVHSビデオを再編集した映像作品と、2015年撮影のデジタルビデオ画像を、マルチスクリーンで同時上映していた。2015年の、街を縦横無尽に走り回るバイクの群れの映像作品は、撮り続けていくとより面白くなりそうだ。
2016/06/30(木)(飯沢耕太郎)