artscapeレビュー
丹野章回顧展 世界のバレエ
2016年07月15日号
会期:2016/06/06~2016/06/25
ギャラリー新居東京[東京都]
丹野章は昨年8月に急逝した。写真家グループVIVO(1959~61年)のメンバーのなかでは最年長(1925年生まれ)だが、いつお会いしてもとても元気に見えたので、その突然の死には驚かされた。以後、その業績をふり返る展覧会や出版が相次いでいる。ギャラリー新居東京で開催された本展も、その一環として企画されたものだ。
「世界のバレエ」は丹野の初期の代表作で、日本大学芸術学部写真学科在学中から、来日した海外のバレエ団の公演に精力的に足を運んで撮影し続けた。ボリショイ・バレエ団、ニューヨークシティバレエ団、ロイヤル・バレエ団、ベルギー国立20世紀バレエ団、谷桃子バレエ団──特に一世を風靡したロシアの名プリマドンナ、マイヤ・プリセツカヤの「瀕死の白鳥」の舞台写真は貴重なものといえるだろう。
丹野はバレエの舞台を「完璧なフィクションの世界」でありながら、自分にとっては「もっともリアルな世界」であると考えていた。その二つの世界を行き来しつつ、「きわどくバランスを保った時間の断面」として捉えることこそ、彼が目指した舞台写真のあり方であり、それは今回展示された1952~72年の18点のオリジナルプリントにも見事にあらわれている。感度の低いモノクロームフィルムを使用しているにもかかわらず、そこにはバレリーナたちの息遣いや、彼らの肉体から発するオーラが写り込んでいるように見える。遺作の整理が進められていると聞くが、本作だけでなく、デビュー作の「日本のサーカス」(1953年)をはじめとする丹野の作品をまとめてみる機会を、できるだけ早くつくっていただきたいものだ。
2016/06/15(水)(飯沢耕太郎)