artscapeレビュー

むらたちひろ internal works / 水面にしみる舟底

2017年06月01日号

会期:2017/05/16~2017/05/28

ギャラリー揺[京都府]

身近な風景を撮影した画像のネガを、インクジェット捺染でプリントした染色作品。エッジがぼやけた画像が、意識の底に沈殿した記憶を連想させる。作品はダブルイメージになっており、最初は布の表と裏からプリントしているのかと思った。実際は、プリントしていない面を表側にして、部分的に水をかけているそうだ。水の影響で裏面にプリントされた像が滲みながら浮かび上がり、白昼夢のような不思議な光景が出現する。作家にとってこれらのイメージは、「確かにあるけれど触れることができない存在(=記憶の断片や肉体を失った後の人)」や「他者の喜びや悲しみ(=完全には分かち合えない感覚)」に通じるとのこと。染色という物理的な現象を用いて、人間の繊細極まりない感覚を具現化した手腕に、静かな感動を覚えた。

2017/05/17(水)(小吹隆文)

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