artscapeレビュー
ウィリアム・ケントリッジ──歩きながら歴史を考える:そして歴史は動き始めた……
2009年10月01日号
会期:2009/09/04~2009/10/18
京都国立近代美術館[京都府]
展覧会資料を読むと、「脱西欧中心主義」とか「ポスト・コロニアル批評」などの文言が見受けられたが、それらについては不勉強なので、予断を排して作品と対峙することにした。初期の代表作「プロジェクションのための9つのドローイング(ソーホー・エクスタインの連作)」は、ゴリゴリした質感の重厚なドローイングを、描いてはコマ撮りする作業を繰り返したアニメ作品。アニメといっても記号性の強い日本のアニメとは質感が異なり、文字通り絵が動いている感覚だ。本展では全9作品を5つのスクリーンで順次上映し、観客は専用のレシーバーとヘッドフォンで自由に音声を選んで見られる方式が採られた。この優れた方法が映像展で採られたことは特記しておきたい。その後の《ジョルジュ・メリエスに捧げる7つの断片》や最新作《俺は俺ではない、あの馬も俺のではない》では、ドローイングと実写、影絵などが自由自在に用いられ、イマジネーションとファンタジーの飛躍が一層拡張されている。彼の作品をまとめてみたのは初めてだが、これほど見応えがあるとは正直思っていなかった。まさに、一年に数度あるかないかの嬉しい驚きだ。
2009/09/03(木)(小吹隆文)