artscapeレビュー
堂島リバービエンナーレ『リフレクション:アートに見る世界の今』
2009年10月01日号
会期:2009/08/08~2009/09/06
堂島リバーフォーラム[大阪府]
シンガポール・ビエンナーレ2006・2008でディレクターを務めた南條史生が、双方の展覧会から26組のアーティストを選び出し、大阪・堂島川の沿岸に今春誕生したばかりの商業施設「堂島リバーフォーラム」で披露した国際展。同展の中心的なコンセプトは、アートを現実の政治や社会、経済や文化を映し出す鏡としてとらえる「反映論」だが、たしかに移民や戦争、宗教、人種、環境といった世界のリアルな問題を取り扱った作品が多い。アルフレド&イザベル・アキリザンによる《アドレス(プロジェクト:アナザーカントリー)》(2007-2008)は、フィリピンの出稼ぎ労働者たちが海外生活で買い溜めたものや故国で待つ家族のためのプレゼントをボックス状のまま積み上げ、ひとつの家のように仕立てたインスタレーションで、雑多な日常用品の圧倒的な集積が、労働者の夢と貧困、ひいてはグローバリズムの功罪を如実に物語っている。なかでも秀逸だったのが、ベトナム在住のディン・Q・リーによる映像作品《農民とヘリコプター》(2006)と、《ヘリコプター・インスタレーション》(2002-2008)。ベトナム戦争を知らない農民の若者たちが自分たちのヘリコプターを手作りで製作したという逸話に着想を得たアーティストが、寄せ集めのブリコラージュとしてのヘリコプターを実作するとともに、「ヘリコプター」という記号をめぐって錯綜するベトナムの人たちの思いを記録した映像作品を作成した。若者たちにとってヘリコプターは農業の重労働から解放してくれる画期的な機械としてあるが、老人たちにとってはベトナム戦争で自分たちの命を奪った殺戮兵器にほかならなかった。映像は、そうした行き違う思いを、ベトナム戦争の記録映像や映画『地獄の黙示録』のシーンを織り交ぜながら、3連のスクリーンの上にわずか15分で、テンポよく描き出していく。ジャーナリズムが伝える「現実」とは異なる角度から、それらとは異なる手法で「現実」を浮き彫りにする、優れた現代アートである。翻って日本では、「反映論」は不当に貶められてきたが、「現実」が想像を追い越してしまい、政治や社会の問題がもはや無視し得ないほど切迫している今となっては、こうした類のアートこそ、今後ますます必要とされるにちがいない。見たいのは、「アートに見る日本の今」である。
2009/09/06(日)(福住廉)