artscapeレビュー

ウィリアム・ケントリッジ──歩きながら歴史を考える

2009年10月01日号

会期:2009/09/04~2009/10/18

京都国立近代美術館[京都府]

南アフリカ生まれでヨハネスブルグ在住のアーティスト、ウィリアム・ケントリッジの個展。2つのフロアを全面的に使用しながら19点の映像作品と36点の素描、64点の版画を一挙に公開する大規模な構成で、たいへんな見応えがある。ケントリッジの代名詞といえば、木炭とパステルで描いたドローイングを部分的に描き直すことで絵を動かしていくアニメーション作品だが、その素朴な技法とは裏腹に、そこに映し出されているのは、アパルトヘイト政策による暴力の歴史や都市の再開発、視覚の問題、キャラクターによる物語、愛と死などで、社会的・政治的問題はおろか、人間の「生」をめぐる普遍的な問題までもが凝縮した、ひじょうに密度の濃い映像である。それらが渾然一体となりながら鑑賞者の側にまで押し寄せ、私たちの情動に深く訴えかけてくるのだ。とりわけ、ソーホー・エクスタインというキャラクターを登場させた初期の映像作品は、叙情的な音楽性によるのか、あるいはドローイングの痕跡がかつて存在したはずの「生」を詩的に偲ばせているからなのか、涙なくしては見ることができない。必見の展覧会である(この後、東京国立近代美術館、広島市現代美術館に巡回する予定)。

2009/09/06(日)(福住廉)

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