artscapeレビュー

アジアを抱いて──富山妙子の全仕事展 1950-2009

2009年10月01日号

会期:2009/07/26~2009/09/13

旧清津峡小学校[新潟県]

美術家・富山妙子の回顧展。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2009」の一部として催された。50年代の炭鉱問題にはじまり、戦争、従軍慰安婦、第三世界など、政治的・社会的な問題に一貫して取り組んできた画業を200点あまりの作品によって一挙に振り返る構成で、ひじょうに充実した展示だった。60年にも及ぶ制作活動を丁寧に見ていくと、いかにも沈鬱なモノクロームの世界から次第に色彩を導入しながら神話的な世界へと移り変わっていくプロセスが手にとるようにわかる。その神話的な物語世界で重要な働きをしているのが、「白狐」だ。富山はかつての帝国臣民や現在の日本国民を白い狐に見立てることで、絵画の寓話性を高めようとしているが、動物に仮託して物語る手法は、たとえば山下菊二にとっての「犬」や、バンクシーにとっての「ラット」、あるいは鳥獣人物戯画における「蛙」と同様、古今東西を問わず、広く行き渡っている表現手法のひとつである。サブカルを貪欲に取り込んだネオ・ポップ以降の文脈からすれば、富山の絵は一昔前のイデオロギー的な絵画にしか見えないかもしれないが、それは様式展開の歴史とは別に、その底流で脈々と受け継がれてきた寓話的な絵画という伝統にはっきりと位置づけられるのである。

2009/09/13(日)(福住廉)

2009年10月01日号の
artscapeレビュー