artscapeレビュー
遠藤一郎 Driving Photo Music
2009年10月01日号
会期:2009/09/02~2009/09/06
Art Center Ongoing[東京都]
未来美術家・遠藤一郎の個展。「new world」「未来へ」など、単純明快なメッセージをエンジンオイルで描きつけた写真作品と、それらの写真をもとにした《Driving Photo Music》を発表した。《Driving Photo Music》とは、遠藤が撮りためたデジタル写真をプロジェクターで投影し、彼が「未来号」で聴いている音楽にあわせながら、手元のキーボードを連打して写真を動かしていくオリジナル写真再生装置。一般的なパソコンとちがい、指示と再生のあいだにタイムラグが一切ないため、自分のリズムで意のままに写真を入れ換えていくことができる。大江千里、Dreams Come True、Underworldなど、ポピュラーミュージックの定番にあわせながら、高速道路の車内から撮影した太陽や雲、そして青空などの写真を立て続けに見てみると、それらがまさしく遠藤が移動してきた旅路そのものであることに気づかされる。そう、遠藤一郎とはつくづく「旅するアーティスト」なのである。それがレジデンスを繰り返しながら各地の国際展を渡り歩くアーティストと異なるのは、遠藤が地元の人びととしっかり交流しながら信頼関係を築き上げ、彼らから「また呼ばれるアーティスト」ということだ。あまりにもベタな作風は、ネタを重視するアートシーンからは軽視されがちだが、そもそもネタという言語ゲームを繰り返すばかりで、「また呼ばれないアーティスト」が多いなか、ほんとうに大切なものは、ベタな信頼関係にしかないことを、遠藤一郎は静かに教えている。
2009/09/04(金)(福住廉)