artscapeレビュー

2014年05月15日号のレビュー/プレビュー

バルテュス展

会期:2014/04/19~2014/06/22

東京都美術館[東京都]

今年は日本とスイスの国交樹立150年とのことで、ヴァロットン展やホドラー展など通好みの展覧会が企画されているが、なかでも最大の目玉がこのバルテュス展だ。これまで日本では84年と93年の2回個展が開かれているが、今回は没後初の回顧展で、11歳のとき制作した素描集《ミツ》から晩年の未完の作品までの出品となる。通して見てみると、構図はアンバランスだし色彩は濁ってるしモデルのポーズもぎこちないし、アカデミックな美術教育を受けた人ならやらないようなことを平気でやってることがわかる。通常なら貴族のアナクロ趣味で終わったかもしれないところを、彼は財力と別の趣味(少女趣味)を発揮して描き続け、技術的欠陥をバルテュスならではのオリジナリティに変えてしまった。財力だけでなく努力の人でもあったのだ。初期のピエロ・デラ・フランチェスカの模写、《夢見るテレーズ》をはじめとする一連の少女像、まるで日本画な《朱色の机と日本の女》など見どころは多い。風景画や静物画にも瞠目すべきものがある。これは必見。

2014/04/18(金)(村田真)

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ニコラ・ビュフ──ポリフィーロの夢

会期:2014/04/19~2014/06/29

原美術館[東京都]

日本に住むフランス人アーティスト、ニコラ・ビュフの美術館における初個展。巨大な動物の口を通って美術館に入ると、まず解説パネルを読むよう勧められる。そこにはポリフィーロの冒険物語が書かれており、その物語に沿って各部屋に設置された作品を見て回るという手の込んだ仕掛け。作品は植物が絡み合うような西洋の装飾模様をベースにしながら、壁画、立体、そしてインタラクティブなマルチメディア・インスタレーションなどに展開している。でもオタク的な感性を持つ彼自身の興味は装飾模様より、西洋の古典と日本のロールプレイングゲームとの融合にあるらしい。いずれにせよ、邸宅として建てられた原美術館の空間をここまで活用して作品化した例はほかにないだろう。軽快にして重厚な展覧会。

2014/04/18(金)(村田真)

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楊子弘「立会人」

会期:2014/04/18~2014/04/20

BankARTスタジオNYK[神奈川県]

台北市と横浜市のアーティスト交流プログラムで横浜に滞在し、BankARTで制作していたヤンさんの成果発表。ヤンさんは立体、映像、インスタレーションとさまざまな手法を用いて現代社会を考え直す作品をつくってきたが、今回は基本的に絵画に絞り、台湾の立法院を占拠していた仲間たちへの連帯をアピールした。作品はヒマワリの絵、星条旗のような赤と青の国旗、黒いキャンバス、それにSNSで運動に賛同した人たちの名前など、台湾人にしか理解しにくい要素で構成されている。きわめて政治色の濃い、それゆえ効力は強くても賞味期限の短い作品。この時点ですでに日本では忘れられつつあった事件だし。

2014/04/18(金)(村田真)

小川直樹 展

会期:2014/04/14~2014/04/19

Oギャラリーeyes[大阪府]

人形だったのだろうか、背中に支え棒が取り付けられた小さな人たちに囲まれ女性が座り込んでいる光景を描いた《魔法使い》、まるで近未来映画の一場面のような《密猟》など、空想的な物語を想起させる絵画が印象的だった小川直樹展。といってもそれらは、突然出現したとりとめのない架空世界でもなければ、見たことのない異世界というイメージでもない。それはどちらかというと自分の位置からは観察できない死角や山の向こうにある風景に、思いを廻らすときのように、容易にこちらの連想を掻き立てていくごく日常的な感覚に依拠している。なんとなくだが、過去に見たことのある映画のワンシーンのような既視感を喚起するモチーフ、水面の波紋を思わせる背景、溶け合う色彩など、頼りなく揺らぐそれらの不安定な要素にこちらの記憶と想像力が刺激され、画面の奥へ続く世界(時間)へとどんどん誘われていくよう。題材も以前にも増して魅力的に感じられた今展。次回の発表も楽しみだ。

2014/04/18(金)(酒井千穂)

前田朋子、上須元徳、久保昌由「silentscape──眼差しの前に風景は沈黙する」

会期:2014/04/14~2014/05/03

gallery wks.[大阪府]

写真を元に制作を行っている前田朋子、上須元徳、久保昌由の3名による絵画の展示。日常で目にするような何気ない光景を描いた前田の油彩画には、部分的にうっすらと青や赤の色味が確認できるのだが、上須のアクリル画や久保の樹木を描いた鉛筆画など、展示されたのはほとんどがモノクロームの作品。いずれの作品も、時の移ろいや風の動きなど豊かな表情をもつものであったが、特に新鮮だったのは上須の作品。一見ぴたりと時間が止まったかのような静的なイメージなのだが、画面の色のトーンの豊富さに気がついた途端に印象がかわり、しなやかなダイナミズムを感じた。静謐をたたえた空間で作品一点ずつをじっくりと見つめるという時間がたいへん贅沢に感じられた展覧会。

2014/04/18(金)(酒井千穂)

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