artscapeレビュー
2014年05月15日号のレビュー/プレビュー
亀谷彩「うみつちひとそら」
会期:2014/04/15~2014/04/27
ギャラリー恵風[京都府]
「逆さまの世界」をテーマにした亀谷彩の漆芸作品。舟底に木の根がのびていたり、梯子の一番下の段に三日月があったり、展示された漆のオブジェはどれも宙に浮かぶように軽やかで、空間的な広がりを感じさせる。漆表現の奥深さもさることながら、風が吹いたら流されてしまいそうな繊細なイメージをかたちにする作家の豊かな想像力と表現力にも魅了された個展。
2014/04/24(木)(酒井千穂)
五十嵐研ゼミ合宿(2日目)
会期:2014/04/23~2014/04/24
[東京都]
ゼミ合宿の二日目も、住宅の見学をコンセプトとし、まず午前は前川國男や堀口捨己による近代住宅や民家などを楽しめる江戸東京たてもの園へ。ちょうど土浦亀城の展覧会を開催中であり、現存する自邸の大きな模型を中心に、卒計ほか、モダニズムの住宅図面、写真家としての妻の仕事なども展示されていた。園内では、レストランにも使われる《デ・ラランデ邸》が増えていた。ただ、洋館の場合、家具がない部屋は空虚感がより強くなる。
午後は前から行きたかった八王子のUR都市機構技術研究所を訪れた。スケルトン・インフィルの考えを提示するKSI住宅実験棟、自然と共生するテクノロジーを紹介するすまいと環境館を経て、お目当ての集合住宅歴史館へ。同潤会の単身者用(畳ベッドを備えていた)と家族用の部屋、2DKの蓮根団地(55型)、多摩平団地のテラスハウス、二層分を再現した前川國男の晴海高層アパートなど、新しい日本の住まいの形式を提示し、日本住宅公団がもっとも輝いていた1950年代を中心とした実物移築の展示を楽しむ。
URの展示を見終えた後は、中央線で戻りながら、幾つか建築をまわった。ファーレ立川を久しぶりに再訪したが、街なかのアートを探しているうちに、おそらくそうでないものも作品のように見えてくる。三鷹の駅前ではパチンコ屋を改修した、MOUNT FUJIによるハモニカ横丁ミタカで軽く一杯をやって休憩した。ハモニカ横丁の雰囲気をイメージした、異なる飲食店を同じ空間に混在させた独特のインテリアだが、そもそも、各店を説得して、よくこの企画を成立させたものだと感心する。最後はオリジナルである吉祥寺のハモニカ横丁でアトリエ・ワンの手がけた店舗を見てから、ゼミ合宿の打ち上げを行なう。
写真:上から、《デ・ラランデ邸》、堀口捨己《小出邸》、吉祥寺のハモニカ横丁
2014/04/24(木)(五十嵐太郎)
田中信太郎、岡崎乾二郎、中原浩大「かたちの発語」
会期:2014/04/25~2014/06/22
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
1940年生まれの田中、55年生まれの岡崎、61年生まれの中原という少しずつ世代の異なる3人の展覧会。3人展といってもひとりほぼ1フロアずつ使い、大作をドーンと置いたりしているので、三つの大個展といってもいい。カタログもひとり1冊ずつつくってるし。でも三つの個展だけど、それぞれ世代やスタイルを超えて共通するものも見えてくる。それはひとことでいえば、作品の得体の知れなさ、わかりにくさだ。とりわけわかりやすい(わかりやすすぎる)作品ばかりがはびこり、もてはやされる現代にあって、この不躾ともいえるくらいの晦渋さは懐かしさを覚えるほど貴重だ。このわかりにくさはおそらく、70-80年代に訪れたモダニズムの終焉を見届け、その荒野から(再)出発せざるをえなかった彼らの悪戦苦闘ぶりに由来するかもしれない。つまり、いったんリセットされてゼロに等しい地点に立ったときになにができるか、なにから始めればいいのかという問題。それを同展は「かたちの発語」というタイトルに込めている。赤ちゃんが生まれて初めて意味不明の音声を発語するように、彼らの「かたち」も意味が生まれる以前の限りなくゼロに近いところから発せられてるのではないかと。このような不穏ともいえる作品体験はここ20年ほど久しくなかったなあ。これは美術館級の、いや、いまどきの美術館ではとうていやれない、おそらくBankARTでしか実現できない壮挙というべきだ。
2014/04/25(金)(村田真)
《真光寺》
[愛知県]
名古屋にて、間宮晨一千が手がけた笠寺の《真光寺》を見学する。ダイナミックなコンクリートの寺院だが、道路側に落ちる大きな片流れの屋根がシンボル性を獲得しており、現代の宗教建築における屋根の重要性を改めて感じさせるものだ。正面の抽象化された山門から続くガラスのスリットは、建物を切断し、その隙間から光が注ぐ。1階が椅子式に対応した本堂、2階は多目的な空間になっており、寺院ゆえの公共施設的な意味も帯びている。
2014/04/25(金)(五十嵐太郎)
オランダ・ハーグ派 展
会期:2014/04/19~2014/06/29
損保ジャパン東郷青児美術館[東京都]
19世紀後半、バルビゾン派の影響を受けてハーグで活動した画家たちの作品展。本家バルビゾン派のミレーから、ゴッホ、初期のモンドリアンまで幅広く集めており、また、ゴッホの伝記に出てくるマウフェとかラッパルトといった画家たちの実作にも触れられるいい機会だった。おもしろいのは、低地のオランダだけに地平線か水平線が延びる横長の風景画が多いこと。空は文字どおり空(くう)なので、大地(または海原)という面がはるか向こうまで横たわっている。それが最後のモンドリアンになると面が立ってくるような錯覚に陥る。ここには出てないが、その後のモンドリアンの抽象画は《ブロードウェイ・ブギウギ》がそうであるように、おそらく垂直に立ち上がった地面なのだ。ホントか?
2014/04/26(土)(村田真)