artscapeレビュー
2015年12月01日号のレビュー/プレビュー
高木智子・山下拓也展「他人のセンス」
会期:2015/11/13~2015/12/19
アートコートギャラリー[大阪府]
画家の高木智子と、立体、インスタレーション、写真などを制作する山下拓也。ジャンルも作風も異なる2人に共通するのは、他人の感性や視点を取り込んで表現を展開させることだ。今回高木が発表した《ベップ》シリーズ20点(エスキース2点を含む)は、大分県別府市で制作した一連の作品で、町中で出合ったショーケースに並ぶ誰かの収集物と飾り付けを、あざやかな色彩がせめぎあう彼女特有の描法で表現している。一方山下は、ネットオークションで入手したキャラクター人形を背面から撮影した《ばいばいの写真》6点と、発泡スチロール製の立体と映像を組み合わせた作品2点を出品した。両者の作品は、「他人」の介在がオリジナリティを生み出すのが特徴で、その結果社会の思いがけぬ一断面を浮き彫りにしている点も興味深い。気鋭の若手による充実した2人展であった。
2015/11/14(土)(小吹隆文)
今村源+東影智裕 共生 / 寄生─Forest
会期:2015/11/07~2015/12/05
ギャラリーノマル[大阪府]
菌類をモチーフとした立体作品で知られる今村源と、動物の頭部を細密な毛並みととともに表現する東影智裕が、「共生 / 寄生」をテーマにコラボレーション展を開催。京都市立芸術大学美術学部教授の加須屋明子がキュレーションを担当した。展示は、鉄パイプが林立する足場の上に巨大な鹿の頭部を配した2人の共作を室内中央に配し、周囲をそれぞれの作品が取り巻くように構成。別室では版画作品も見られた。彼らがモチーフとする菌類と毛並みは、「世界をわけ隔てる曖昧な境界」に存在する。それは異界への出入口であり、無数の主が複雑な関係を結びながら共存共栄するために必須の仕組みと言える。会期中にパリで同時多発事件があり(11/13)、人間社会に共生の精神が失われつつあることが露わになった。偶然とはいえ、そうしたタイミングで本展が行なわれたのは非常に示唆的である。
2015/11/14(土)(小吹隆文)
新発見の高麗青磁──韓国水中考古学成果展
会期:2015/09/04~2015/11/17
大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]
韓国国立海洋文化財研究所が調査した高麗青磁に関する最新成果を紹介する展覧会。大阪市立東洋陶磁美術館が有する館蔵品の参考出品を含め、およそ200点の資料が展観された。興味深いのはこれが水中考古学に依拠して、海底から発掘された遺物であること。14世紀の船沈没「新安船」が1970年代後半に発見されて以来、沈没船から引き揚げられた陶磁器は数万点に上る。それらの資料は高麗青磁の生産・流通経路・編年・用途等がその水中発掘物から徐々に判明してきた様子を物語っている。「青磁獅子形香炉蓋」などあまり例を見ない力強い造形作品から、「青磁瓜形水注」や「青磁象嵌菊牡丹柳蘆竹文梅瓶」のなだらかで優雅な曲線を描く形、青磁皿の各種にみられる自然を写した陰刻文様の美しさ、木簡や船に積載された稲・粟・蕎麦等の具体的な出土品までを実見できる。発見された約800年以上も前の品々が、ほぼ当時の状態を保ちながら海中に眠っていたことに思いを馳せると、ロマンをかきたてられる。[竹内有子]
2015/11/14(土)(SYNK)
武器をアートに──モザンビークにおける平和構築
会期:2015/10/17~2015/11/23
東京藝術大学大学美術館[東京都]
アフリカ・モザンビークで独立後の1975年から1992年まで続いた内戦によって国内に残された大量の武器を回収するために、武器を農具と交換する「銃を鍬に」というプロジェクトが行なわれた。集められた武器は爆破・解体され、その一部がアート作品の素材となって制作されたのが、今回展示されている金属彫刻の数々。解体された銃でつくられている椅子のほか、読書する人、楽器を弾く人などが表現されているのは、平和な暮らしへの転換をイメージしているのだろうけれども、いっそギターの代わりに銃を持たせて人間の愚かさを作品によって記憶させてもよいように思った。あるいは農具を持たせるのはベタに過ぎるだろうか。と書いたのは作品自体にあまり魅力を感じなかったことと、銃を鍬に代えるというこのプロジェクトがアートとどのように結びつくのかが不分明だったからなのだが、モザンビークという国とその苦難の歴史を知り、平和を築くためのプロジェクトを知らしめるという点において、展覧会という形式がとても有効であることを認識した。[新川徳彦]
2015/11/18(水)(SYNK)
GKグラフィックス30周年企画展
会期:2015/10/27~2015/11/07
Gallery 5610[東京都]
「綾」──美しい織物の表情──をテーマに、これからのコミュニケーションデザインの可能性を提案する展覧会。さまざまなメッセージが込められた牛乳パッケージの提案や、薄いディスプレイを搭載しインタラクティブに変化する未来のカレーのパッケージは、人とモノとのコミュニケーションの可能性を示す。「こえのかたち」という装置は人の個性や感情をテキストメッセージに反映させるもの。画面に表示されたテキストを読み上げると、音声に含まれる抑揚、ニュアンスによってその文字の視覚表現が変化するのだ。「COTOCATA」という積み木を使ったゲームは、2人のプレイヤーのうち、片方が手元のカードに示された形を言葉で指示し、相手はその言葉を頼りに積み木の箱から必要なパーツを選んで形を組み上げるもの。実際にプレイさせてもらったが、ものの形を視覚ではなく言葉で伝えることの難しさを実感すると同時に、どのような言葉を選べば相手に伝わるのかということを考えされられる、良くできたゲームなのだ。
パッケージ、ブランディング、CI、サインなどのグラフィックデザインを手がけるGKグラフィックスが、1985年にGKインダストリアルデザイン研究所から独立して今年創立30周年を迎えたことを記念して開催された企画。当初は過去の仕事を見せる展示も考えられたというが、このような未来を見せるデザイン展は2013年に世田谷美術館で開催された「榮久庵憲司とGKの世界展」と共通するGKらしさを感じる企画であった。周知の通り、今年2015年2月にGKグループの創設者・榮久庵憲司氏が亡くなった。本展示とそこに現われた未来は、偉大な経営者亡き後のグループのこれからを示すものと考えることもできるかもしれない。[新川徳彦]
関連レビュー
2015/11/18(水)(SYNK)