artscapeレビュー

2017年06月15日号のレビュー/プレビュー

ライアン・ガンダー ─この翼は飛ぶためのものではない

会期:2017/04/29~2017/07/02

国立国際美術館[大阪府]

大阪へ。ライアン・ガンダー展@国立国際美術館。注目の現代アートというよりも、美術史の文脈を踏まえ、脱臼させるコンセプチュアル・アートゆえに、美術館という制度的な箱そのものへの批評的な介入という側面が個人的に楽しめた。今回は常設エリアの全体も彼によるセレクションで構成されており、ペアで異なるアーティストの作品を並べることで新しい意味を見いだす試みである。企画展の延長として、美術館のコレクションも鑑賞できる仕掛けだ。

2017/05/02(火)(五十嵐太郎)

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アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国

会期:2017/04/29~2017/06/18

東京ステーションギャラリー[東京都]

ヘンリー・ダーガーと並ぶアウトサイダーアートの代表的画家。ダーガーが15,000ページを超す『非現実の王国で』を残したとすれば、ヴェルフリは25,000ページを超す作品を描いた。しかも余白を残さず画面を絵と記号で埋め尽くす密度の濃さ。この二人、貧しい家に生まれ、両親と早く離別(死別)するという共通点があるが、違うのは、ダーガーが10代から働きながら約60年間ひとり黙々と創作を続けたのに対し、ヴェルフリは31歳で精神科病院に入れられ、そこで絵を描き始め、以後30年にわたって描き続けたこと。その絵は女陰を思わせる紡錘形、円、格子縞、アルファベットや数字や音符などの記号、人の顔などがほぼ左右対称に新聞用紙の画面を埋め尽くすという、アウトサイダー・アートの典型を示している。初期には色がなかったり、後期には写真コラージュを用いるなど多少の変化は見られるものの、基本的なスタイルが生涯ほとんど変わらないのも特徴だ。余談だが、カタログをながめていたら、《偉大なる=王女殿下、偉大な=父なる=神=フローラ》と題する1枚に、ダーガーそっくりの少女像の写しがあった。もちろん彼はダーガーのことなど知るよしもない。
ヴェルフリといえば、かつて種村季弘あたりがゾンネンシュターンなどとともに「異端の芸術家」として紹介していたような記憶があるが、近年の評価の急上昇は驚くばかり。特にヴェルフリの故国では「スイスが生んだ偉大な芸術家」として美術史にその名が刻まれているという。なにせスイス連邦鉄道には彼の名を冠した「アドルフ・ヴェルフリ号」が走っているというから、日本なら新幹線に「山下清号」と命名するようなもんだ。そこまでやるか。

2017/05/03(水)(村田真)

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奥山由之「君の住む街」

会期:2017/04/27~2017/05/07

スペース オー[東京都]

ちょうどトークショーの開催直後だったということもあって、原宿・表参道ヒルズ内の会場には観客があふれていた。同名の写真集(SPACE SHOWER BOOKS)の販売ブースやサイン会には長蛇の列。奥山由之の人気がいまや沸騰しつつあることがよくわかった。
今回の展示は、ファッション雑誌『EYESCREAM』2014年3月号~2016年11月号に連載された「すべてポラロイドカメラによって撮影された35人の人気女優」のスナップ=ポートレートのシリーズを中心に、撮り下ろしの東京の風景写真を加えて構成している。奥山の人気の秘密は、すでにタグ付けされている彼女たちのイメージを、ポラロイドのあえかな画像で、誰にでも手が届くレベルにまで引きおろしたことにあるのだろう。とはいえ、特に過激な再解釈を試みるのではなく、あくまでもインスタグラムで「いいね!」がつく範囲に留めている。そのあたりの匙加減が絶妙で、観客(男女の比率はほぼ半分)は、あたかも自分のために撮影された写真であると思いこむことができる。むろん、それをただの幻影にすぎないと批判するのは簡単だ。だが、どの時代でも観客とスターたちとのあいだに見えない回路をつくり出す特殊な魔法を使える写真家はいるもので、現在では、奥山がそのポジションに一番近いのではないだろうか。
以前、彼の写真展(「Your Choice Knows Your Right」RE DOKURO)について「ファッション写真の引力権から離脱すべきではないか」と書いたことがあるが、本展に足を運んで、必ずしもそうは思えなくなってきた。魔法は使えるうちに使い尽くしてしまうべきだろう。ファッションや広告を中心に活動する写真家が、「アート」の世界に色目を使うと、あまりにも過剰に反応し過ぎて、かえってつまらない作品になってしまうのをよく見てきた。シリアスとコマーシャルの領域を、むしろ意図的に混同してしまうような戦略が、いまの奥山には似合っているのではないだろうか。

2017/05/03(水)(飯沢耕太郎)

N・S・ハルシャ展:チャーミングな旅

会期:2017/02/04~2017/06/11

森美術館[東京都]

南インドの作家であり、ひたすら人物像を反復して描くことを特徴としている。が、そこに現代的なテーマを組み込み、グローバル資本主義にさらされる社会状況への批判としての寓意画を制作する。展示の後半は、カラフルな筆致のストロークが冴える作品が続く。まったく知らない作家だったが、森美術館の作品解説は丁寧で感心する。

2017/05/03(水)(五十嵐太郎)

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片山正通的百科全書 Life is hard... Let’s go shopping.

会期:2017/04/08~2017/06/25

東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]

彼が収集したコレクションを見せる展示だが、さすがにその内容は独自の審美眼をもち、はるかにお金をかけて実施された村上隆のそれに比べると弱い。が、会場を訪れ、狙いは必ずしも、それでないことがよくわかった。すなわち、いつもは事務所や家に置くコレクションを、インテリアデザイナーとしていかに見せるかの会場デザインこそがポイントである。だから、やたらと壁が多い。なお、片山コレクションはポップやセクシーなものが多い。建築系ではシャルロット・ペリアンとプルーヴェの家具の部屋が楽しい。現代アートの目玉は、最後に設けられたライアン・ガンダーの部屋であり、大阪の個展と同時でタイミングがよい。ライアンは自作が購入されたら所有者の好きなようにしてよいと言っていたが、まさにそのとおりに構成されている。

2017/05/03(水)(五十嵐太郎)

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2017年06月15日号の
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