artscapeレビュー
2017年06月15日号のレビュー/プレビュー
30周年記念 かいけつゾロリ大冒険展
会期:2017/04/26~2017/05/08
日本橋高島屋8階ホール[東京都]
かーちゃんの命により中2病の息子を科学館へ連れて行く予定が、地下鉄のホームで「かいけつゾロリ」のポスターを見つけてしまい、急遽行き先を変更。「ゾロリ」のシリーズは息子が小さいころ何冊か読み聞かせたので、とーちゃんも覚えている。とーちゃんは本当はテレビの「怪傑ゾロ」の世代だからな。あ、作者の原ゆたかも世代が近いからきっと「怪傑ゾロ」を見ていたに違いない。それにしても「ゾロリ」のシリーズ、子どもが思いつきそうなギャグやストーリー展開だなあと思っていたが、それを大人になっても連発できるというのはやはり才能というしかない。驚くのは、このシリーズ、書き始めて30年、計60冊も出ているという事実だ。親子2代にわたってお世話になった家族も多いだろう。年に2冊のペースで出し続けるというのは、それだけ売れている証拠。どんだけ儲けたんだ? とーちゃんはそっちのほうが気になる。展示は時代順に1冊ずつ、原画やストーリーにまつわるオブジェなどを並べたもの。さすがに60冊もあると見てるだけで疲れる。
2017/05/04(木)(村田真)
幕末明治の写真家が見た富士山 この世の桃源郷を求めて
会期:2017/04/13~2017/06/30
フジフイルムスクエア写真歴史博物館[東京都]
入江泰吉、牛腸茂雄、奈良原一高など、主に日本の写真家たちの企画展を開催しているフジフイルムスクエア写真歴史博物館で、「幕末明治の写真家」の作品をフィーチャーしたユニークな展覧会が開催された。富士山はいうまでもなく古来日本人の心を強く捉え、詩歌や絵画の題材としても繰り返し取り上げられてきたテーマだが、幕末に日本に渡来した写真も例外ではない。今回の展示は、フェリーチェ・ベアト、日下部金兵衛、ハーバード・ポンティングが撮影した富士山の写真を中心に、水野半兵衛の珍しい「蒔絵写真」、小川一真、渡辺四郎らの作品を加えて構成されていた。
イタリア生まれで、幕末から明治初期にかけて横浜にスタジオを構えて活動したベアトは、その優れた撮影技術を駆使して、エキゾチックな富士山の眺めを巧みに捉えている。外国人のための土産物として販売されていた「横浜写真」の代表的なつくり手であった日下部撮影の富士山の写真は、隅々まで気を配って彩色された工芸品だ。1901年からたびたび日本を訪れ、何度も富士山を撮影しているポンティングは、むしろそのダイナミックで雄大な自然美を強調した。幕末から明治期にかけての「富士写真」に絞り込むことで、よくまとまった、中身の濃い展示になっていた。
ただ、いつも思うことだが、クオリティの高い企画が多いにもかかわらず、歴史博物館の展示スペースがあまりにも狭すぎる。今回の展覧会も、骨格を提示しただけで終わってしまった印象が強い。もう少し展示会場の面積を拡張できないのだろうか。なお、本展を監修したのは、2015年に『絵画に焦がれた写真 日本写真史におけるピクトリアリズムの成立』(森話社)を上梓した気鋭の写真史家、打林俊である。リーフレットに掲載された、彼の「いざ写し継がん、幕末・明治の写真家と不尽の富士」は行き届いた内容の解説文だった。
2017/05/04(木)(飯沢耕太郎)
ライアン・ガンダーによる所蔵作品展─かつてない素晴らしい物語
会期:2017/04/29~2017/07/02
国立国際美術館[大阪府]
今回はコレクション展のほうもライアン・ガンダーにもてあそばれている。厖大なコレクションから似たもの同士を選び、38組のペアで展示しているのだ。例えば、パブロ・ピカソの《道化役者と子供》とマルレーネ・デュマスの《おじいさんと孫娘》の組み合わせは、タイトルからも察しがつくだろう。ヨーゼフ・ボイスの《カプリ・バッテリー》と島袋道浩の《柿とトマト》は、いずれも野菜と果物を素材とした作品で、菅井汲の《S.14 & S.15》とベルナール・フリズの《51%の真実、48%の虚偽》は、どちらもグネグネ曲がる形態の抽象絵画。高松次郎の《大理石の単体》と草間彌生の《道徳の部屋》は、外側は箱状で中身はグシャグシャ、モーリス・ルイスの《Nun》と榎倉康二の《干渉(STORY-No.46》は「にじみ」がキーワードだ。おおむね色やかたち、素材が似ている作品同士を組み合わせているが、例えば、ルーチョ・フォンタナの《空間概念、期待》と深見陶治の《景》のような離れ技もある。前者は例の切り裂かれたキャンバスで、後者は陶剣なのだ。たしかにペア。
2017/05/05(金)(村田真)
ライアン・ガンダー─この翼は飛ぶためのものではない
会期:2017/04/29~2017/07/02
国立国際美術館[大阪府]
ライアン・ガンダー、1976年イギリス生まれ。40歳そこそこの海外のアーティストに国立美術館全館を使った個展とコレクション展を任せるというのも、なかなかないことだ。さぞかしおもしろいに違いないと思って新大阪で降りて見に行ったら、本当におもしろかった。これはさっき広島市現代美術館で見たブルース・ナウマンの映像と同質のもので、出会い頭いきなりトンチクイズを出されたみたいな、いいかえれば自分の知識と想像力をフル回転させなければ先へ進めないような、そんなアートだ。
例えば、壁に埋め込まれた目玉と眉。近寄ってみるとクルクルと動く。タイトルは《最高傑作》。この作品は東京でも見たことあるが、今回新作として《あの最高傑作の女性版》もある。たしかに眉が細くてまつげもついている。タイトルはシャレでつけてるようでかなり重要だ。というかタイトルと作品を突き合わせることで効果が倍増する。汚れた台座の上に置かれた黒い小さな呪術人形は《僕の魔力はどこにいってしまったの?》、壁の下のほうに穴をあけた作品は《僕はニューヨークに戻らないだろう》、床に英語の書かれた紙クズが置かれているのは《あまりにも英国的というわけではないが、ほぼ英国的な》、床や壁に数千本の黒い矢が斜めに刺さっているインスタレーションは《ひゅん、ひゅん、ひゅうん、ひゅっ、ひゅうううん あるいは同時代的行為の発生と現代的表象と、斜線の動的様相についてのテオとピエトによる論争の物質的図解と、映画の100シーンのためのクロマキー合成の試作の3つの間に》と題されている。デタラメな番号を振られたガイドを見ながら、みんな右往左往するしかない。
2017/05/05(金)(村田真)
広島平和記念資料館
殿敷展を見たら寄らないわけにはいかないだろう。タクシーを飛ばして平和記念資料館へ……と思ったら、今日はフラワーフェスティバルで平和大通りは通行止め。しかたなく遠回りして原爆ドーム側から行く。連休も終盤で、おまけに快晴でフラワーフェスも開かれているため、平和記念公園はけっこうな人出。資料館は本館が改修工事のため閉鎖中で、リニューアルされた東館に入る。新たに導入された広島への爆弾投下の映像が圧巻。上から広島市街の俯瞰図が映し出され、そこに爆撃機が飛来して爆弾を投とすのだが、これってどこかで見覚えがあるなと思ったら、キューブリックの『博士の異常な愛情』で将校が爆弾にまたがったまま落下していくシーンとよく似ているではないか! もちろんリトルボーイにはだれも乗ってないけどね。で、空中で核爆発を起こして市内が焼き尽くされるのを見下ろすという、かなり思い切った映像だ。これって米軍の視点? それとも神の視点?
2017/05/05(金)(村田真)