artscapeレビュー
2017年06月15日号のレビュー/プレビュー
アンティゴネ~時を超える送り火~
会期:2017/05/04~2017/05/07
駿府城公園紅葉山庭園前広場 特設会場[静岡県]
演劇祭のフィナーレを飾るのは、芸術総監督の宮城聰の演出による「アンティゴネ 時を超える送り火」だ。野外に構築された水上の舞台に夜が訪れ、幻想的かつ美しいラスト・シーンを迎える。リズミカルな生の演奏、俳優と声の分離、音の仕掛けも素晴らしい。敵と味方に二分し、死者を弔うことへの疑義というギリシア悲劇は、現代の世界と確実にシンクロしている。
2017/05/07(日)(五十嵐太郎)
腹話術師たち、口角泡を飛ばす
会期:2017/05/06~2017/05/07
静岡芸術劇場[静岡県]
ジゼル・ヴィエンヌ「腹話術師たち、口角泡を飛ばす」@静岡芸術劇場。ユーモアを交えた腹話術師の国際会議として始まるが、だんだんダークなジゼル節に変わっていく。そもそも腹話術師とは、声と表情を切断する多重人格的な俳優なのだが、人形という表層を通じて、人間のドス黒い内面が炙り出される終盤は異様な雰囲気に包まれる。
2017/05/07(日)(五十嵐太郎)
ふじのくに ⇄ せかい演劇祭2017
会期:2017/04/28~2017/05/07
静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園、静岡音楽館AOI[静岡県]
今年は街なか展開の要素が強く、駿府城公園でのメイン企画「アンティゴネ」のほか、お城ステージ、学校ステージ、市役所ステージなど、都心で無料の野外演劇やダンスが開催され、小さな家型を散りばめたoff-Nibroll、笑えるパントマイムのシルヴプレ、DAZZLEなどの公演を見る。
写真:左中=off-Nibroll 左下=シルヴプレ 右=DAZZLE
2017/05/07(日)(五十嵐太郎)
《地図を作る保育所》
[神奈川県]
今年のU-35に出品するナノメートルアーキテクチャーが手がけたオフィス・ビルに設けられた保育所を見学する。まだ完成前だったが、天井から吊る格子、床のライン、壁、可動家具にグリッドをはりめぐらすインテリアである。場所は路面で、隣にコンビニもできるようだが、施設の性質上、外へのドアはメインの出口とせず、オフィスとも切り離す自律した空間となっているのが興味深い。
2017/05/08(月)(五十嵐太郎)
藤岡亜弥「アヤ子、形而上学的研究」
会期:2017/05/09~2017/05/26
ガーディアン・ガーデン[東京都]
藤岡亜弥は、日本大学芸術学部写真学科を1994年に卒業し、16人の女性写真家たちのアンソロジー写真集『シャッター&ラブ』(インファス、1996)に作品を発表してデビューした。以後、コンスタントにいい仕事を続けてきている。写真集としてまとまったのは、『さよならを教えて』(ビジュアルアーツ、2004)、『私は眠らない』(赤々舎、2009)の2冊だけだが、台湾、ニューヨークに長期滞在して撮影した厚みのあるシリーズもある。ブラジル移民の二世だった祖母の足跡を辿った「離愁」(2012)も印象深い作品だ。2016年に、広島をテーマに銀座と大阪のニコンサロンで開催された個展「川はゆく」は、同年度の伊奈信男賞を受賞した。今回、ガーディアン・ガーデンのSecond Stageの枠で開催された藤岡の個展「アヤ子、形而上学的研究」は、単独の作品ではなく、ミニ回顧展とでもいうべき構成をとっていた。
69点の写真は7つのパートに分かれている。「アヤ子江古田気分」、「なみだ壷」、「台湾ミステリーツアー」などの初期作品を集めたパートから始まり、「さよならを教えて」、「離愁」、「Life Studies」、「Tokyo Ghost Tour」、「私は眠らない」、「川はゆく」の各シリーズからピックアップされた写真が並ぶ。そのなかで、ちょうど2000年代初頭(「離愁」と同時期)に撮影された「Tokyo Ghost Tour」の写真群に強く惹きつけられた。もともと藤岡の写真には、生者と死者(Ghost)とが入り混じって存在しているような気配が色濃く漂っている。現実の空間から半ば離脱し、非日常の幽界に足を踏み入れつつある、そんな死者たちを写真に呼び込むようなアンテナが藤岡には備わっているのだ。そのアンテナの精度は、近作になるにつれてさらに高まりつつあるように見える。その意味では、もうすぐ赤々舎から刊行されるという新作『川はゆく』がとても楽しみだ。初めてデジタルカメラで撮影したのだというこのシリーズで、ヒロシマの死者たちは、藤岡の写真の中にどんなふうに姿をあらわすのだろうか。
2017/05/09(火)(飯沢耕太郎)