artscapeレビュー

2019年10月01日号のレビュー/プレビュー

北野 謙 写真展「光を集める」

会期:2019/09/17~2019/11/10

写大ギャラリー[東京都]

北野謙は東日本大震災のあと、「何をどう踏み出していいのかわからない」状態に陥る。そこで「東京の街でセルフポートレイトを撮る」ことで、新たなきっかけを見出そうとした。そのとき、手鏡で太陽の光を反射させて撮影したことから、「光」をテーマとした写真群がかたちを取ってくる。その「reflect」シリーズは、2013〜14年に文化庁新進芸術家在外研修員としてアメリカ・ロサンゼルスに滞在時に制作された、長時間露光で太陽の軌跡を定着した「day light」シリーズにつながっていった。

北野はさらにアメリカから帰国後に、今回の展示のメインとなる「光を集める」シリーズに着手する。ある場所にカメラをセットし、冬至から夏至までの太陽の軌跡を可視化しようとする作品である。「6カ月長時間露光」という破天荒なアイディアによって捉えられた画像は、写真家の思惑をはるかに超えたものだった。時にはカメラに雨水が浸水したり、カメラそのものが壊れてしまったりすることもあるという。画像そのものの色や形も、どんなふうになるかまったくわからない。「写真を撮る」というよりは「毎回像が〈現れる〉現場に立ち会う感覚」という彼の言葉には実感がこもっている。

北野の「光」をテーマとする作品は、山崎博や佐藤時啓の仕事と共通性を持つ。ただ、山崎や佐藤の作品では場所性が希薄なのと比較すると、北野はカメラを「国立療養所長島愛生園」、「金沢21世紀美術館」、「東京工芸大学」に設置するなど、特定の場所と光との関係を積極的に写真に取り込もうとしている。「光を集める」というのは、いわば写真表現の原点というべき行為であり、これから先も、より広がりのある仕事として展開することができるのではないだろうか。

2019/09/23(月)(飯沢耕太郎)

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奥山由之『Girl』

発行所:BOOTLEG

発行日:2019年9月14日

奥山由之は、2011年の第34回「写真新世紀」で優秀賞を受賞して、写真家としてデビューした。そのときの展示を見て、まだ21歳という若さにもかかわらず、ひとりの少女の姿を淡い光と影の移ろいのなかに浮かび上がらせ、その微かに身じろぐようなたたずまいを捉える能力の高さに驚かされた。何だかHIROMIXの写真のようだと思ったら、当のHIROMIXが審査員として優秀賞に選んでいるのがわかって、妙に納得したことも覚えている。

その受賞作「Girl」は、2012年にPLANCTONから少部数の写真集として刊行されたのだが、あまり話題にもならず絶版になっていた。その後奥山は、 写真集『BACON ICE CREAM』(PARCO出版、2016)を刊行し、同名の個展をパルコミュージアムで開催して、一躍注目を集めるようになった。その後の活躍ぶりはめざましいものがある。今回BOOTLEGから復刊されたのは、その彼の写真家としての原点というべき写真集『Girl』である。

あらためてページをめくると、写真作品一点一点のクオリティの高さだけでなく、モノクローム写真にカラー写真を効果的に配合して、少女を軸とした物語を構築していく力を、彼が既にしっかりと身につけていたことがわかる。だが、その完成度の高さは諸刃の剣といえるだろう。あまりにも早く自分の世界ができあがると、そこに安住して、同工異曲の繰り返しに走ってしまうことがよくあるからだ。だが、奥山はその後『Girl』を足場にして、意欲的に自分の写真の世界を拡張していった。それが、現在の彼の写真家としての立ち位置につながっているということだろう。

2019/09/25(水)(飯沢耕太郎)

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