artscapeレビュー
2009年04月15日号のレビュー/プレビュー
李祖原《TAIPEI 101》
[台北(台湾)]
竣工:2004年
高さ508m、階数101。2004年以降、2007年にドバイのブルジュ・ドバイに抜かれるまで、世界一の超高層建築物であった。完成した建物としては、2009年4月現在も世界一の高さである。設計は李祖原建築事務所、施工は熊谷組が中心で、逆四角錐台を8つ重ねたような形をしているため、斜めの柱の扱いが大変だったという。
ところで、この建築を取り上げたのは、李祖原という台湾におけるポストモダンをリードした建築家の重要性もさることながら、結果として、グローバル化されていない(といえる)デザインの超高層ができていたからである。2000年以降のさまざまな超高層と見比べたとき、実は超高層としてこれほどかっこ悪い建築はないだろうと思っていた。にもかかわらず、台北で見たときには不思議と自然に見え、現地の状況にあっている気がした。グローバル化する世界においては、超高層のデザインもグローバル化する傾向にあると思っていたけれども、こちらはデザインにおいてその波に抵抗している。李祖原は、台湾南部の高雄の《高雄85》という超高層建築も設計しており、こちらも足が二つ、頭部が一つの、ほかになかなか見ない超高層デザインであり特徴的だった。
2009/03/28(土)(松田達)
李祖原《宏国大樓》
[台北(台湾)]
竣工:1989年
台湾では、李祖原の作品を多く見た。台湾の建築家で世界的に知られている人物は少ない。近代建築は日本統治時代のものである。I.M.ペイは、台湾にも建築をつくったが、中国系アメリカ人建築家である。20世紀後半の台湾を代表する建築家は、間違いなく李祖原だといえる。李祖原のなかでも、ポストモダン・ヒストリシズム建築の代表作とも言えるのがこの宏国ビルであり、形態からはマイケル・グレイブスや磯崎新の建築も彷彿とさせる。建築的要素のスケールをところどころ極端に変えたようなデザインが特徴的であり、なぜか超合金ロボットを見ているようでもあった。同日、彼のハイテク風、ルシアン・クロール風などの別の建築も見たのだが、さまざまなポストモダン建築を一人で体現しているのはすごい。
関連URL:http://tenplusone.inax.co.jp/archive/taiwan/taiwan-002.html
2009/03/28(土)(松田達)
今井久美 写真展「カムフラージュ」
会期:2009/03/24~2009/03/29
アートスペース虹[京都府]
前回はおたく、ロリータ、古着、ギャルなど「○○系」とカテゴライズされるファッションをそれぞれに身にまとった若い女性たちの写真を発表。集団として群れる安心感や、特定の趣向のグループに属する自分を観察し、アイデンティティの問題にアプローチした今井。今回は街中の風景を背にした制服姿の女子高生を撮影していた。スカートやソックスの丈、ヘアスタイル、携帯ストラップやバッグなどの小物が、それぞれの個性やいまの流行を示しているが、今回は、個性よりも制服という制限を隠れ蓑に、むしろ目立たない、突出しないという没個性を望む潜在意識に焦点を当てている。今井はそこに自分の姿を重ねているのだが、そのような集団に自らの身を置き、「カムフラージュ」させていくことは意外と高度な技だし、繊細な面がなければできないことだ。コロコロとつねに変わりゆく流行をつねに観察し、情報に敏感でなければならないし。今展で、若い女子高生の写真から現在の流行をいくつか知ったのだが、そこで今井とは逆に「カムフラージュ」することに鈍感になっている自分に気づいた。
2009/03/28(土)(酒井千穂)
六本木アートナイト
会期:2009/03/28~2009/03/29
六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館など[東京都]
夕方5時半ごろぶらぶら歩いて六本木ヒルズのアリーナへ。すでに、メタリックシルバーに輝く高さ7メートルもの《ジャイアント・トらやん》がひかえ、周囲はずいぶんな人だかり。まず、オープニングセレモニーにおエライさんたちがごあいさつし(最後は森美術館の南條史生館長)、ご来賓のご紹介……なんか「六本木アートナイト」のノリと違うなあと思っていたら、ヤノベケンジが登場。関西弁はややスベリがちだが、さすがツカミは心得ていて、あおるあおる。やがてトらやんの目が開き、ボワーッと火を吹く。おーっ。やっぱりデカくて芸がある作品はこういうとき強い、と、その後の開発好明や丸山純子の作品や、日比野克彦ディレクションの「キューブからの指令」などを見て思ったのだった。
六本木アートナイト:http://roppongiartnight.com/
2009/03/28(土)(村田真)
入谷葉子
会期:2009/03/17~2009/03/29
neutron[京都府]
以前もシルクスクリーンの上に色鉛筆の線を重ねた作品を発表していたが、今回は油性の色鉛筆のみを使用。色面で構成した大画面の風景は入谷が昔住んでいた家の玄関や裏庭をモチーフにしている。玄関前やその周辺で撮影した複数の記念写真やスナップ写真をもとにしているが、ごくプライベートな思い出の抽出でありながら、見ているとその光景はこちら側の思い出まで引き出していく。いまはもう跡形もなくなってしまった昔の家の記憶は私にもある。裏庭で落ち葉や廃棄段ボールを燃やしたり、玄関を開けたときに漂ってくる夕飯の匂いなど、外観や雰囲気はまったく異なるのに、入谷の作品からはこれまでアルバムで見る写真からは思い出さなかった嗅覚の記憶がよみがえってくるようだった。鮮やかな色のインパクトも強く、ネガフィルムのような色面構成に想像の「余地」があるせいも大きいだろうが、それは写真よりもリアルな感覚だ。これまでと異なる今回の展開は入谷の作品に新たな魅力をもたらしていた。また次の機会が楽しみ。
2009/03/29(日)(酒井千穂)