artscapeレビュー
2009年04月15日号のレビュー/プレビュー
第12回岡本太郎現代芸術賞展
会期:2009/02/07~2009/04/05
川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]
今回はタムラサトル(特別賞)や井口雄介ら光りものも多かったが、坂口竜太や田中麻記子らまっとうな絵も多かった。岡本太郎賞は、巨大お札のインスタレーションと、剃りあげた後頭部に絵を描かせる捨て身のパフォーマンスの合わせ技を見せた若木くるみ、24歳。一見学芸会の余興っぽいが、後頭部を伝わって描かれた彼女自身のドローイングを見ると、なかなか達者な腕前であることがわかる。会期中ずーっと作品のなかにいるらしく、どうやらタダモノではなさそうだ。
2009/03/29(日)(村田真)
阿部大輔『バルセロナ旧市街の再生戦略』
発行所:学芸出版社
発行日:2009年2月28日
バルセロナ建築高等研究院にて、スペインの都市計画を研究した阿部大輔氏による初の著作。バルセロナは1992年のオリンピック以降、都市再生の成功が注目を集める。その旧市街地を再生に導いた都市計画の詳細を、はじめて日本語で解き明かしたのが本書である。過去の研究者が少なかったためか、また言語の問題もあったのか、これまでスペインの都市計画が日本で紹介されることはほとんどなかった。日本は明治以降、主にイギリス、ドイツ、アメリカの都市計画を輸入してきたからでもある。しかし、バルセロナの都市政策は、例えば1999年に王立イギリス建築家協会(RIBA)から、都市として初めてゴールド・メダルを受賞するなど、現在ヨーロッパ中で高い評価を得ている。
阿部が注目したのが「旧市街地の多孔質化」である。単に小広場をつくって空間的に多孔質化をするといったハードの側面だけではない。人々がその空間を継続的に使っていくため、いかにしてアクティヴィティのネットワークをつくっていくのかといったソフトの側面の重要性も強調する。「ミクロの都市計画」として、部分から全体へとつながっていく都市計画を実践するための多様な可能性が触れられている。バルセロナの歴史的な経緯や事業としての計画も含めた広い視野のなかで、単なる都市計画の紹介ではなく、戦略的なまちづくりとはいかにあるべきかといった、より高次な問題にも接続する。「都市全体を公共空間」と捉え、質の高い公共空間の密度を高めていくバルセロナの方法論は、日本の各自治体、まちづくりに関わっている人々にとって、重要な参考例となるだろう。
ところで、本書は文献のみを参照して書かれた本ではなく、あとがきで触れられているように、バルセロナの旧市街地のさまざまな都市の匂いを知ることによって初めて生み出された本である。旧市街地に惹き付けられ、4年にわたり街路の隅々まで歩き続けた阿部だからこそ書けた、都市的重層性を帯びた渾身の著作だ。
2009/03/31(火)(松田達)
カタログ&ブックス│2009年4月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
第1回恵比寿映像祭 オルタナティヴ・ヴィジョンズ“映像体験の新次元” カタログ
2009年2月20日〜3月1日に行われた恵比寿映像祭のカタログ。全フロアを使っての展示(アンディ・ウォーホル、ブルース・コナー、クリス・バーデンほか)、会期中に上映された作品、ライヴなどのイベントの詳細に加えて、映像祭に先駆けて行なわれた「映像をめぐる7夜」についても収録。
Daido Moriyama: Hokkaido 森山大道写真集『北海道』
2008年12月19日〜2009年2月8日までRAT HOLE GALLERYにて行なわれた同名の展覧会に合わせて出版された写真集。
1978年初夏、田本研造を中心とした開拓写真師達の〈写真〉に触れ、北海道に漠然とした思いを抱いていた森山大道は、札幌に3ヶ月間アパートを借り撮影を行なった。これまでほとんどプリントされることなく眠り続けていた膨大なネガのなかから抜粋された300点以上の写真を掲載。
Exhibition as media 2008「LOCUS」記録集
2008年11月1日〜24日まで開催された同名展覧会の記録集。展示・イベント風景のほか、会期中に行われたゲストトーク及び出品作家による座談会を収録。
1 floor 2008「No potato of name」記録集
2008年8月23日〜9月7日まで開催された同名展覧会の記録集。1980年代生まれの若手作家3名(青田真也、八嶋有司、吉田周平)の展示風景及び作家インタビューを収録。
Buku Akiyama
Composition No.2 “an exceptional state”: with equipments owned by hiromiyoshii
2008年4月5日〜5月2日にFARMにて開催された展覧会カタログ。秋山ブクによるインスタレーションの様子を80頁に渡って収録。
現代建築家コンセプト・シリーズ4 西沢立衛│西沢立衛建築設計事務所スタディ集
手書きのスケッチ、図面の断片、走り書きのメモ、ラフ模型、フォトコラージュ、ダイアグラムなどで構成される西沢事務所のスタディ集。さまざまなアイデアの断片と幾多ものスタディ案によって、建築を創造する瞬間のダイナミズムが再現される。[INAX出版サイトより]
2009/04/15(水)(artscape編集部)