2018年01月15日号
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artscapeレビュー

高橋恭司「夜の深み」

2016年03月15日号

会期:2016/01/22~2016/02/27

nap gallery[東京都]

高橋恭司は、1990年代に雑誌、広告等でカルト的な人気を博した写真家である。『THE MAD BLOOM OF LIFE』(用美社、1994)、『Takahashi Kyoji』(光琳社出版、1996)、『Life goes on』(同、1997)といった写真集では、放心と疾走感とがない交ぜになった、独特の映像の文体を確立していた。ところが、2000年代になると心身の不調が写真にあらわれてくるようになり、長い停滞期に入り込む。彼はどうやら、時代の悪意や閉塞感を鋭敏に感じとり、取り込んでしまうアンテナの持ち主だったようだ。2009年頃から活動を再開し、『流麗』、『煙影』、『境間』(いずれもリトルモア)といった写真集を発表するが、表現意識の空転が無惨に露呈するだけだった。
今回のnap galleryでの個展は、商業ギャラリーではひさびさの発表になる。どんな作品なのか半信半疑で見に行ったのだが、新たな方向へ踏み出していこうという意欲が、しっかりと感じられる展示だったことに安心した。「夜の深み」をテーマとする写真群が並ぶ壁の反対側に、裸電球が吊るされ、その下に楕円型の鏡が置かれている。鏡の反射は、向かい側の壁を区切るように投影されており、その光によって写真群が照らし出されていた。ややトリッキーなインスタレーションだが、仕掛けに無理がなく、夜の雨に滲むイルミネーションや、闇に沈み込む「眠る人」などのイメージも、たしかな説得力を備えていた。まだ断言するには早いが、「復活」を強く印象づける展示だったと思う。
次は、以前のように伸びやかなイメージが連なる写真集をぜひ見てみたい。焦らずにゆったりと仕事を続けてほしいものだ。

2016/02/05(金)(飯沢耕太郎)

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