2018年10月15日号
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artscapeレビュー

気仙沼と、東日本大震災の記憶

2016年03月15日号

会期:2016/02/13~2016/03/21

目黒区美術館[東京都]

震災から5年、宮城県気仙沼市のリアス・アーク美術館が調査・記録した被災現場写真を中心に、家電やパソコンなどの被災物、過去の震災や津波の資料など約400点を借りてきて展示している。なぜ目黒区美術館でやるのかというと、1996年から続く「目黒のさんま祭」に気仙沼市がサンマを提供してきたからだそうだ。こうした食文化のつながりというのは意外と堅固で納得できる。さて、展示のほうは200点を超す写真が圧巻。といっても写真自体は大きくないし、驚くような光景が写されてるわけでもなく、こういってはなんだがもはや見慣れた被災地の風景ばかり。なのに目を釘づけにしてしまうのは、1点1点に150-200字程度のコメントがつけられ、言葉とイメージのダブルパンチで揺さぶりをかけてくるからだ。撮影者が地元の人であることも説得力があるし、また彼が美術館学芸員であるせいか、被災地や被災物にある種の美しさやおもしろさを見出そうとしているようにも感じられるのだ。例えばJR気仙沼線のレールがめくれ上がり、まるでジェットコースターみたいに裏返っていたり、津波で建物2階に運ばれて息絶えた魚の軌跡が乾いた泥に印されていたり、冠水した路地に建物が映る様子がヴェネツィアの運河を連想させたり。「破壊は美を奪い『醜さ』を生み出す」とコメントにあるが、そこにまた別の「美」を見出してるようにも見える。もちろん言葉とイメージだけですべて伝わるわけでもないだろう。おそらくここに決定的に欠けているのは「匂い」ではないか。大量のサンマが腐ってどす黒い塊と化した写真のコメントには「匂いのレベルが違う」「体が震えだし、身の危険を感じた」と書かれている。そして匂いは記憶のもっとも古層に沈潜し、ふとしたはずみに蘇る。これは美術館では伝わらない。

2016/02/14(日)(村田真)

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