2018年07月15日号
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artscapeレビュー

河合政之「natura : data」

2016年03月15日号

会期:2016/02/06~2016/03/19

MORI YU GALLERY KYOTO[京都府]

宇宙空間に輝く星や銀河のように、無数の白い光が暗闇で瞬いている。床に敷かれた白い砂は、凍りついた雪原のように見える。月面に立って星の瞬く宇宙を眺めているような感覚。映像インスタレーション《Calcium Waves》は、美しいが、静寂と死の世界を思わせる。だが実はこの作品には、「カルシウムウェーブ」という、人間の肝臓やすい臓などの分泌細胞内で起こっている現象を光学顕微鏡で捉えた映像が用いられている。床の砂や小石は、炭酸カルシウムの結晶でできた石灰石や大理石だ。
一方、対置された《Video Feedback Configuration》シリーズの作品では、20~30年前の中古のアナログヴィデオ機器が無数のケーブルで接続され、中央のモニターにサイケデリックで抽象的なパターンが生成されている。「ヴィデオ・フィードバック」の手法、すなわちアナログなヴィデオ機器を用いて閉回路システムをつくり、出力された電子信号をもう一度入力へと入れ直し、回路内を信号が循環・暴走する状況を作り出すことで、無限に循環するノイズが偶然に生み出すパターンが、多様な形や色の戯れる画面を自己生成的に生み出していく。それは、極彩色の色彩とあいまって、下から上に吹き上げる生命エネルギーの噴出のようだ。また、箱の中に収められ、絡み合うコードに繋がれた機器は、血管や神経で接続され、人工的に培養された臓器のようにも見えてくる。それらが、もう製造されていない古いアナログヴィデオ機器であることを考えれば、技術の進展とともに古びて「死」へ向かう旧メディアを、つかの間「延命」させる装置であるとも言えるだろう。
無機質で生命のない世界に見えたものが、実はヒトの体内細胞の現象であり、有機的に見えたものが電子的なノイズである、という逆転。河合政之は、電子信号/生体反応という違いはあれ、微細なパルスを拾ってデータとして可視化することで、無機と有機の世界を架橋し、「データの交通」という共通性のもとに捉えてみせる。その手つきは、データの観測・認識という科学的手法を取りながら、絶対的で単一の客観性へと向かうのではなく、可視化された世界を微分し、私たちの認識を複数性へと開いていく。普段は意識すらされない体内の生体反応も、「意味の世界」として受容している映像も、その表層を剥いだ下には、見えていないだけで微少なデータの波や流れが行き交っているのだ。


河合政之《Calcium Waves》
©Masayuki Kawai photo:Kenryu Tanaka
Courtesy of MORI YU GALLERY


河合政之《Video Feedback Configuration no.5(Fudo-myo-o)》
©Masayuki Kawai photo:Kenryu Tanaka
Courtesy of MORI YU GALLERY

2016/02/07(日)(高嶋慈)

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