2017年08月01日号
次回9月1日更新予定

artscapeレビュー

誕生40周年 こえだちゃんの世界展

2017年08月01日号

twitterでつぶやく

会期:2017/07/08~2017/09/03

八王子市夢美術館[東京都]

「こえだちゃんと木のおうち」は、1977年に玩具メーカーの株式会社タカラトミー(当時:株式会社タカラ)が発売したミニドールつきのハウス玩具。その誕生40周年を記念して開催される本展では、初代「こえだちゃんと木のおうち」からシリーズ最新作までの玩具のほか、パッケージ、初期イラストレーター桜井勇氏によるイラスト原画など、約150点の作品が展示されている。また、会場には最新の「こえだちゃんと木のおうち」で遊べるプレイスペースが設けられている。
展示は時系列に全5章で構成されている。「こえだちゃん」が生まれた1970年代半ばにはサンリオから「ハローキティ」が誕生するなど、ファンシー、メルヘンをテーマにしたキャラクターが人気を呼んでいた。パステルカラーを基調とした2頭身キャラクターの「こえだちゃん」もその系譜に属するが、「自然」をテーマ設定した「こえだちゃんと木のおうち」では大きな木の家の屋根がワンタッチで開閉したり、幹の中にエレベーターが付いているなど、数々のギミックが仕掛けられていたことが従来の女児向けの玩具と大きく異なった点であった。初期の製品パッケージには「こえだちゃん」で遊ぶ男の子の写真が女の子に並んで配されており、男の子も遊べるファンシーな玩具という企画意図がうかがえて興味深い。仕掛けの付いた「木のおうち」は男の子にとって秘密基地のイメージだったのだろうか。玩具の発売と平行して講談社の雑誌『おともだち』では初期「こえだちゃん」の桜井勇氏による連載が始まり、メルヘンな世界が形作られていった。1980年代前半には「こえだちゃん」にはさまざまなバリエーションが登場。お風呂遊びや病院ごっこなど、「自然」というテーマから離れた玩具も現れる。おそらくこれは「こえだちゃん」というキャラクター自体が認知を得たからではないかと推察する。またこの頃のパッケージからは男の子が姿を消しており、女の子向け玩具としてのイメージを強くしている。
1985年、「こえだちゃん」には強力なライバルが現れた。エポック社の「シルバニアファミリー」である。動物を擬人化しフロッキー加工を施した2.5頭身の人形、海外のドールハウスのような高級感のある家や家具を特徴とする「シルバニアファミリー」は子供たちの間でおおいに人気を博した。「こえだちゃん」も対抗する。3頭身のプロポーション、髪の毛を植毛したミニドールを発売するなど、さまざまな方向が模索されたものの、1993年にシリーズはいったん休止となった。再開は2004年。自然というテーマはそのままに「木のおうち」のギミックが進化。そしてミニドールはこの時期の流行に合わせてポップなかわいらしさを意識したものになった。復刻版が発売されるなど、かつて「こえだちゃん」で遊んだ母親たちと現在の子供たちの双方を視野に入れた展開がみられる。2011年以降はさらに「木のおうち」の大型化、音声や電動によるギミックの進化など、遊び方が拡張される一方、サンリオの「キキ&ララ」「マイメロディ」や「シナモロール」とコラボレーションするなど、キャラクター面でも新たな広がりを見せ、YouTubeを使った情報発信をするなど、プロモーションの方法も進化を続けている。
40年にわたる「こえだちゃん」の変化と進化のスピードは、本展と会期を同じくして目黒区美術館で展示されているヨーロッパの木の玩具のあり方ととても対照的だ。古くからの技術を用い変化が緩慢な印象を与えるヨーロッパの玩具に対して、日本の玩具は日々進化する素材、技術をいちはやく取り入れ、またその意匠は社会の要求に応じて、市場における流行と競争によって、絶え間なく変化している。この展覧会を見て、日本において玩具は時代を映す鏡であるという思いを改めて強くした。どちらが良いということではない。これは彼の地の人々と日本人の玩具の使いかた、価値観の違いを反映しているのだろう。
話を「こえだちゃん」に戻す。学部生男女に聞いてみたところ、「こえだちゃん」を知っている、あるいは「こえだちゃん」で遊んだことのある者はわずか。「シルバニアファミリー」で遊んだという者の方が多かった。これらの玩具の主な対象年齢は3歳から5歳なので、彼らの年齢から逆算するとそれは1990年代終わりから2000年代初め、ちょうど「こえだちゃん」シリーズが休止していた時期に当たる。彼らが知らないのも当然だ。それでは「こえだちゃん」を知らない彼らが子供を持つころ、「こえだちゃん」はどのように進化し、どのようにプロモートされ、どのように時代を映していることだろうか。[新川徳彦]


会場風景

★──ヨーロッパの木の玩具(おもちゃ)—ドイツ・スイス、北欧を中心に(目黒区美術館、2017/7/8-9/3)。


関連記事

プレビュー:誕生40周年 こえだちゃんの世界展|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー
時代が見えてくる──オキュパイドジャパンのおもちゃたち|SYNK(新川徳彦):artscapeレビュー

2017/07/08(土)(SYNK)

▲ページの先頭へ

artscapeレビュー /relation/e_00040484.json l 10137623

2017年08月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ