artscapeレビュー

永沼敦子「GOLDEN HARVEST」

2012年05月15日号

会期:2012/04/09~2012/05/05

東塔堂[東京都]

花ではなく植物の写真展だ。観賞用に切り花にされた被写体ではなく、大地に根を生やしてそこから成長してくる植物にカメラを向けている。花の写真にありがちな、センチメンタリズムやナルシシズムはまったくなく、むしろ萼や茎や葉の細部のフォルムにしっかりと目を凝らす植物学者の視線さえ感じさせる。とはいえ、それは決して堅苦しくなく、のびやかで、すべてが祝福されているようなポジティブな気分があふれている。永沼敦子の「GOLDEN HARVEST」のシリーズは、なかなか得がたい、チャーミングな「植物写真」としての姿をあらわしていた。
作品のサイズがあまり大きくないのも、このシリーズにちょうど見合っているのではないかと思う。古書店の本の合間の壁に、あまり押し付けがましくなく、ポストカード大の写真(丸いフレームに入っているものもある)が並んでいるたたずまいがなかなかよかった。マット系の紙に印刷した、和綴じの小ぶりな写真集(デザイン・加藤勝也)もとても雰囲気よく仕上がっていた。
ただ、永沼にはあまりこの「小さな世界」に充足していてほしくはない。デビューから10年以上が過ぎ、彼女自身が「GOLDEN HARVEST(実り多い収穫)」の時期を迎えつつあると思えるからだ。もう少し、制作のペースを上げていってもいいのではないだろうか。

2012/04/19(木)(飯沢耕太郎)

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