artscapeレビュー
小原一真『RESET - BEYOND FUKUSHIMA(福島の彼方に)』
2012年05月15日号
発行所:Lars Müller Publishers
発行日:2012年3月10日
1985年、岩手県生まれの小原一真は、東日本大震災の3日後に勤めていた会社を辞め、被災地に入ることを決意した。それから1年以上、大津波の現場だけではなく、復興へ向かって立ち上がる人々、新たに誕生した生命、元気に校庭を走り回る子どもたちなどを、粘り強く、つぶさに撮影し続けてきた。圧巻は自ら2011年8月に作業員と一緒に送迎バスで福島第一原子力発電所の免震重要棟に入り込み、隠し撮りで撮影した一連の写真だろう。報道関係者の立ち入りが厳しく規制されているなかでの彼の行為に対しては、問題視されても仕方がないところがある。だが、いつの時代でも「これを撮らなければならない」という写真家の強い思いは最大限に尊重されるべきではないだろうか。原発の作業員たちの気魄のこもったポートレートとインタビューも含めて、震災後、ここまで被写体に肉迫した写真とテキストはほかにはなかったと思う。
その小原の写真集『RESET BEYOND FUKUSHIMA 福島の彼方に』は、スイスのLars Müller Publishersから刊行された。このことについては、やや忸怩たる思いがある。おそらく小原は日本の出版社から写真集を出す可能性も模索したはずだ。だが、結果的にそれは実現できなかった。逆に国際的な評価の広がりという点においては、これでよかったともいえる。それでも、日本の写真界がこのような仕事をきちんと引き受けることができなかったというのはやはり残念だ。写真集は英語と日本語のバイリンガルで丁寧につくられているので、日本の多くの読者にもうまく届くことを望みたいものだ。
URL=http://resetbeyondfukushima.com/
2012/04/01(日)(飯沢耕太郎)