artscapeレビュー

佐内正史「ラレー展」

2012年05月15日号

会期:2012/04/06~2012/05/06

NADiff Gallery[東京都]

佐内正史の本領発揮というべき写真展だ。「ラレー」というのは佐内の造語で、「ラーメン+カレー」のこと。いうまでもなく、展示されている作品にはすべてラーメンとカレーが写っている。それも衒いなく、まっすぐに、ラーメンの丼とカレーの皿を画面の真ん中に置いて、射抜くように撮影した写真ばかりだ。ここ2年ほど、都内を中心にラーメン屋やカレー屋に通い詰めて撮影したようだが、店内が少し暗いので、「ピントが一点にしか合っていない」ものが多い。だが、そのことが逆にラーメンとカレーそのものの存在感を強め、見る者を引きつける不思議な魅力を発しているように感じる。
佐内には『俺の車』(メタローグ、2001)という写真集がある。買ったばかりの愛車、黄色いスカイラインを、さまざまな場所で前後、左右、上下から撮影した写真をまとめたものだ。「これが好きだ」「これが撮りたい」という彼の思いがストレートに伝わってくる。子どもっぽいといえばそれまでだが、佐内が手放しで被写体に向かうときの純真無垢な衝動が、『俺の車』にも今回の「ラレー」シリーズにもあふれ出している。そんなときの彼は無敵だ。しばらくこういう一点突破の写真を見ていなかったので、とても新鮮だった。佐内にとっての「原点回帰」といえるのではないだろうか。
なお、佐内自身が主宰する「対照」レーベルとMatch and Companyの共同出版で写真集『ラレー』も刊行された。前作『パイロン』の続編にあたる写真集だが、すっきりした造本で気持ちよく仕上がっている。

2012/04/06(金)(飯沢耕太郎)

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