artscapeレビュー

2012年05月15日号のレビュー/プレビュー

笹倉洋平 展「グリン」

会期:2012/03/19~2012/03/31

Gallery kr f・te[大阪府]

ペンや鉛筆などで描いた夥しい数の線が、まるで蔓系植物のように捻れたり絡まりながら画面全体に広がる。時間軸を空間化する動的な作品を発表してきた笹倉洋平が約三年ぶりに大阪で個展を開催した。会場は中津にあるデザイン事務所「クレフテ」が運営するギャラリー。約16平方メートルという小さなスペースに並んでいたドローイング作品はそれぞれの展示の間隔が狭く、はじめは、詰め込み過ぎなのでは?という印象もあったのだが、一点ずつをじっくりと見ていると、作品との距離が近い分、躍動感のあるダイナミックな筆致と繊細な線の儚げな表情が際立って見える。さらにそれぞれの画面の線が増殖し、隣の画面に連なり、全体に広がっていくようなイメージを掻き立てるからおもしろい。久しぶりの発表だったが新しい感動を覚えた展覧会。今後も活動を続けてほしい作家だ。

2012/03/31(土)(酒井千穂)

竹内公太「公然の秘密」

会期:2012/03/17~2012/04/01

XYZ collective(SNOW Contemporary)[東京都]

初めて訪れるXYZコレクティブ。駒沢大学駅から迷いながらようやくたどりつくと、シャッターの前に置かれた透明のブースのなかに竹内らしき人が入っている。ドアの絵が描かれたドア(つまりドアの表面に「ドアを描いた絵」を貼ってある)を開けると、内部は薄暗い車庫のような空間。壁面に、福島第一原発の前でカメラに向かって白い防護服の作業員が指さしをする動画が映し出されている。ネットで話題になった「指さし作業員」だ。その横に椅子とマイクのようなものが置かれ、だれかが話している。マイクのようなものは糸電話でシャッターの外に伸びているので、さきほどの竹内らしき人と話してるらしい。「らしい」とか「らしき人」というのは実際にぼくが糸電話で話してないので確認できないからだが、話したところで本人かどうか断定はできないだろう。同様に、いやそれ以上にネット上に飛び交う情報は、とりわけ原発事故に関する情報は、なにがホントでなにがウソか見きわめるのが難しい。つまりこの個展は「指さし作業員」が自分の仕業であることを告白すると同時に、ホントにそれが竹内の仕業なのかをもういちど来場者に問い直しているようにも受け取れる。あたかもカメラに向かって指をさすように。またそれによって「指さし作業員」がたんなる「パフォーマンスアート」に回収されることを拒み、まさに原発事故の真相のように「薮のなか」にまぎれようとしているのかもしれない。

2012/04/01(日)(村田真)

京都府庁旧本館 春の一般公開(観桜会) ECHO TOUR 2012

会期:2012/03/20~2012/04/01

京都府庁旧本館[京都府]

明治37(1904)年の竣工から昭和46年まで、京都府庁の本館として使用された京都府庁旧本館。現役の官公庁建物としては日本最古のもので国の重要文化財にも指定されている。ここで2009年度より、春の一般公開のときに造形作品の展示、演劇、ライブパフォーマンスなど、京都を中心に活躍するアーティストたちがそれぞれの発表をする「ECHO TOUR」が行なわれている。今年は作品展示に、矢津吉隆、前川多仁、大倉尚志、松谷真未、小川剛、ヒデキアリチ、カリーナ・ビョーク、日菓、したてひろこが出品作家として参加。重厚な趣きの館内それぞれの空間に作品が展示されていた。作品のなかでは、3.11以降ネットなどのメディアで語られた陰謀論をモチーフにしたインスタレーション《君たちの想像力は地球を貫く》や、文明の象徴としての「火」が燃えつづける3DCG映像《絶えない火》など、矢津吉隆の発表作品が特に印象に残る。このイベントには「作家がその場所と“ECHO=反響”するように表現する」というテーマがあるのだが、矢津の作品はこの場の固有性も含め、展示全体が重層的な世界と歴史に思いを巡らせるものになっていて、その点でもじっくりと堪能したい空間だった。館内では展示の他に、小さな工芸品や手芸品などを販売しているコーナーもあり、作品を手に取って楽しむ場にもなっていた。私もそこにあった陶芸家の藤田美智の小さな陶器作品がすっかり気に入って花瓶を購入。建物や展覧会だけでなく、新たな出会いも楽しめる機会だった。


ECHO TOUR 2012 京都府庁旧本館展示風景

2012/04/01(日)(酒井千穂)

小原一真『RESET - BEYOND FUKUSHIMA(福島の彼方に)』

発行所:Lars Müller Publishers

発行日:2012年3月10日

1985年、岩手県生まれの小原一真は、東日本大震災の3日後に勤めていた会社を辞め、被災地に入ることを決意した。それから1年以上、大津波の現場だけではなく、復興へ向かって立ち上がる人々、新たに誕生した生命、元気に校庭を走り回る子どもたちなどを、粘り強く、つぶさに撮影し続けてきた。圧巻は自ら2011年8月に作業員と一緒に送迎バスで福島第一原子力発電所の免震重要棟に入り込み、隠し撮りで撮影した一連の写真だろう。報道関係者の立ち入りが厳しく規制されているなかでの彼の行為に対しては、問題視されても仕方がないところがある。だが、いつの時代でも「これを撮らなければならない」という写真家の強い思いは最大限に尊重されるべきではないだろうか。原発の作業員たちの気魄のこもったポートレートとインタビューも含めて、震災後、ここまで被写体に肉迫した写真とテキストはほかにはなかったと思う。
その小原の写真集『RESET BEYOND FUKUSHIMA 福島の彼方に』は、スイスのLars Müller Publishersから刊行された。このことについては、やや忸怩たる思いがある。おそらく小原は日本の出版社から写真集を出す可能性も模索したはずだ。だが、結果的にそれは実現できなかった。逆に国際的な評価の広がりという点においては、これでよかったともいえる。それでも、日本の写真界がこのような仕事をきちんと引き受けることができなかったというのはやはり残念だ。写真集は英語と日本語のバイリンガルで丁寧につくられているので、日本の多くの読者にもうまく届くことを望みたいものだ。

URL=http://resetbeyondfukushima.com/

2012/04/01(日)(飯沢耕太郎)

セザンヌ──パリとプロヴァンス

会期:2012/03/28~2012/06/11

国立新美術館[東京都]

ああセザンヌか、何年ぶりだろうくらいの気分で、つまりなんの期待も感慨もなく見に行った。展覧会は「初期」「風景」「身体」「肖像」「静物」「晩年」の6章立てで、「初期」では「よくこんなヘタクソなのに画家を目指したもんだ」とあきれるほど稚拙な作品が並び、先が思いやられる。とくに別荘のために描いた装飾画4部作《四季》には開いた口がふさがらない。……と思ったら、「風景」では《首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ》をはじめ、2点の《大きな松の木と赤い大地》《サント=ヴィクトワール山》など、いかにも構築的で「画面コンシャス」な傑作が並んでいて感激。さらに「肖像」では、自分の奥さんなのにちっともきれいに描こうとしてないのが潔い《赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人》や、そのままピカソに接続しそうな《アンブロワーズ・ヴォラールの肖像》もあるではないか。また「静物」では、美術の教科書に必ずといっていいほど載ってる《りんごとオレンジ》がオルセー美術館から来ている。もうこの数点だけでこの「セザンヌ展」はすばらしいと言い切ってしまおう。サブタイトルにもあるように、同展のテーマは画家が往復しながら制作した「パリとプロヴァンス」なのだが、そんなテーマなどかすんでしまうくらい作品がいい。これはオススメ。「ポロック展」でもそうだったが、展示室の最後にプロヴァンスのアトリエが再現されていた。

2012/04/02(月)(村田真)

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