artscapeレビュー

藤原更「Neuma」

2012年05月15日号

会期:2012/03/10~2012/04/09

エモン・フォトギャラリー[東京都]

藤原更は愛知県出身で、現在パリを拠点として写真作品を発表しているアーティストだ。今回の東京での初個展で、初めて彼女の作品を見たのだが、なかなか不思議な味わいのものだった。
大判のインスタントカメラのフィルムで、蓮の茎や葉、水面などを撮影した画像をスキャンして大きく引き伸ばしている。あえて、期限切れのフィルムを使っているので、画像は漂白されたようなあえかな色味になり、画面の周囲にはインスタント写真特有の滲みや掠れができている。その手触り感のある画面は、一見、パソコンで加工したように見えるのだが、実際にはまったく操作していないのだそうだ。被写体が二重三重に重なり合っているので、あたかも薄膜をそっと積み重ねたような微かなブレが生じ、その微妙なたたずまいの画像が眼に快く浸透してくる。のびやかで芳醇な表現意欲を感じさせるいい作品だ。
タイトルの「Neuma」というのは、中世のグレゴリオ聖歌などで使用された、波のうねりのように上下する記譜記号だという。たしかに、藤原の作品を見ていると、音楽が発想の基本になっているのではないかと思う。それも気持ちが浮き立つような、華麗に弾ける音の連なりではなく、どちらかといえば沈鬱でメランコリックな響きの「Neuma」ただ、もしかすると彼女のなかにはもっと別の音楽も流れているのではないかという気もしないでもない。機会があれば、別のシリーズも見てみたいと思う。

《Neuma》2010, Lambda Print

2012/04/04(水)(飯沢耕太郎)

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