artscapeレビュー
山崎博「写真的事件」
2012年05月15日号
会期:2012/04/10~2012/05/10
GALLERY 360°[東京都]
1970~80年代に山崎博が試みた「写真による写真論」の先駆的な意味が、ようやく最近になって認識されてきたのはとてもいいことだと思う。今回の展示はホンマタカシの提案で実現したようだが、2000年代以降のホンマの作品に至るまでの日本の写真表現の系譜を、山崎の仕事を糸口にして辿り直すことも可能になってくるのではないだろうか。
写真史的な意味合いは別にして、NDフィルター付きのレンズで太陽の光跡を長時間露光した「Heliography」(1978)やゼロックスコピー機をカメラの代わりに使って風景をコピーする「Taken with Xerox」(同)などの仕事は、いま見ても充分にスリリングで面白い。あらゆる事象を光と影が織り成す「写真的事件」として検証していこうとする、当時の山崎の若々しい意欲が、作品のたたずまいからヴィヴィッドに伝わってきて興奮を覚えた。こういう作品群を見ていると、デジタル時代における「写真による写真論」も充分に可能なのではないかと思えてくる。若い写真家たちも見てほしい展覧会だ。
展示されている作品にはタイトルや年代の表記は一切なく(500分限定のカタログには表記あり)、すべてが非売品なのだという。写真はアート作品ではないというこのあたりのこだわりにも、いかにも山崎らしい頑固さを感じた。とはいえ、彼や田村彰英、長船恒利、浜昇、谷口雅、田口芳正、桑原敏郎などの同時代の仕事は、遅かれ早かれ現代美術の文脈に組み込まれていくだろう。1970年代の「写真による写真論」については、そろそろ美術館の出番なのではないだろうか。
2012/04/17(火)(飯沢耕太郎)