artscapeレビュー

鈴木諒一「郵便機」

2012年05月15日号

会期:2012/04/12~2012/04/25

エモン・フォトギャラリー[東京都]

鈴木諒一は2011年度のエモン・ポートフォリオ・レビューのグランプリ受賞者。筆者を含む審査員(飯沢耕太郎、小松整司、大和田良、河内タカほか)が、最終審査に残った10名から、彼の「郵便機」のシリーズをグランプリに選んだ。東京藝術大学先端芸術科在学中という毛並みのよさ、抜群の映像センスとたしかな技術力、思考と言語化の能力の高さ──誰が見ても文句のつけようのない受賞だったと思う。
だが、今回の展示を見て、やや肩すかしを食ったような気分になった。作家であり郵便飛行機のパイロットでもあったサン・テグジュペリの軌跡を、映像によって辿り直すというコンセプトは鮮やかに決まっている。印刷物を、デストーションをかけて複写して、完璧な技術でイリュージョナルな旅を再構築してみせた。ところが、そこから浮かび上がってくる世界が、審査のときに見たポートフォリオ以上にはふくらまず、なんとなく小さくまとまっているように見えてしまうのだ。アクリルでプリントをサンドイッチするという展示の手法も、どことなくありきたりなものに見えてしまう。
往々にして、彼のように才能に恵まれた作家は、最初からあまり冒険をせず、まとまりやおさまりを最優先しがちだ。だが、それは諸刃の剣で、知らず知らずのうちに自らの潜在的な可能性を狭めてしまう。むしろ鈴木にとっては、次回の展示が正念場だろう。そこでは、自分でもコントロールがきかないような未知の領域にチャレンジしていってほしい。

2012/04/12(木)(飯沢耕太郎)

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