artscapeレビュー
京都工芸繊維大学美術工芸資料館における杉田禾堂の作品展示
2012年08月01日号
会期:2012/07/17~2012/09/07
京都工芸繊維大学美術工芸資料館[京都府]
京都工芸繊維大学はその母体のひとつである京都高等工芸学校創立時(1902)から内外の美術工芸資料を収集しており、現在、その稀有なコレクションは1980年に学内にオープンした美術工芸資料館で保存・展示されている。膨大な所蔵品には知られざる貴重な資料も多数含まれる。2012年9月7日まで展示されている金工家・杉田禾堂の指導による昭和初期の産業工業品もそのひとつだ。
灰皿や花器、ブックエンド等の展示品は、杉田が大阪府工業奨励館工芸産業奨励部長の職にあった折、彼の指導のもとに製作された試作品である。その一部は、デザイン史家・宮島久雄の調査により、1935年の「近畿聯合輸出向工芸試作品展」および「商工省第3回輸出工芸展覧会」に出品されたものと推察されている。つまり、これらは輸出促進の国策の一環として海外市場向けに試作されたものなのだ。なるほど、和製アール・デコや構成派とも形容できるフォルムに蒔絵等、日本の伝統技法が組み合わされているところは、輸出用としての意図を強く感じさせるだろう。喫煙具が多数を占めるのも欧米市場を意識したためと考えられている。
最終的に、これらの試作品は実際に生産されることなく試作品の段階で終わったのだが、もし、欧米に輸出されていたら、どのように受容されたのか、想像がふくらむ。また、昭和初期の日本国内においてはこの種の洋風のプロダクトの需要はほとんどなかったが、杉田自身は、「今後は国内にも洋風のものが採り入れられる」と考えていたようだ。それゆえ、これらはたんに欧米人の好みにおもねった品々というよりは、日本の生活デザインの質を高めようとする杉田の気骨に溢れたものとみなすこともできるかもしれない。いずれにせよ、近代化と富国強兵が進む時代の日本にあって、これらの試作品が、現在「プロダクト・デザイン」と称されるものを取り巻いていた当時の状況の一側面を伝えるものであることは確かだ。京都工芸繊維大学美術工芸資料館ではこの常設展示とともに、企画展示として「創造のプロセス 想像力のありか──京都工芸繊維大学教員作品展」を9月7日まで開催中であり、そちらも充実の内容である。[橋本啓子]
2012/07/21(土)(SYNK)