artscapeレビュー

百々俊二『遥かなる地平 1968-1977』

2012年12月15日号

発行日:2012/10/10(木)

滅法面白い写真集だ。百々俊二はビジュアルアーツ専門学校・大阪の校長を務めながら、『楽土紀伊半島』(ブレーンセンター、1995)、『大阪』(青幻舎、2010)など力のこもった写真集を刊行し続けている写真家だが、この著作では1947年生まれの彼が20歳代の時期に撮影した写真を、再構成して発表している。「A1968年1月17日─21日──佐世保[原子力空母エンタープライズ寄港阻止闘争]」から「Z1976年─77年──大阪」まで、26の断章におさめられた400ページを超える写真群によって浮かび上がる「若き写真家の軌跡」は見応えがあり、同時に胸を打つものがある。
いうまでもなくこの時期には、若者たちの叛乱が日本全国を覆い尽くし、中平卓馬、森山大道、荒木経惟らの登場によって、日本の写真表現が高揚し、沸騰していた。その時代の息吹を、九州、大阪の地にあって受けとめ、投げ返そうとする百々の体を張った営みが、息苦しいほどの切迫感で伝わってくるのだ。社会状況に深くコミットメントする写真だけでなく、テレビのクイズ番組を勝ち抜いて招待されたというロンドン旅行の写真(1970)、1972年に結婚する妻、節子を撮影し続けた「私写真」なども入っているのが、いかにも彼らしいと思う。写真に加えて、巻末の鈴木一誌(ブックデザインも担当)による百々へのロング・インタビューをあわせて読むと、時代背景と写真家の位置づけが、より立体的に見えてくるだろう。

2012/11/29(木)(飯沢耕太郎)

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