artscapeレビュー
悪の教典
2012年12月15日号
会期:2012/11/10
三池崇史監督の映画『悪の教典』を見る。『エヴァQ』で抱いていた不満が解消されるようなすごさだ。前半は暴力描写を抑え、後半はお前たちが望む暴力を見せてやるとばかりに高校生の惨殺シーンが続く。が、それはスカッとするスペクタクルにならず、観衆がドン引きする不快なリアル感を伴う。痛み、狂気、そして笑いさえも一緒くたに放出する。おそらく原作の内容を詰め込むことは難しく、物語としては壊れているところもあるが、先生は出席をとるように殺したというコピー通りに遂行される殺戮の場面は映像でしかできないこと。平等に人を殺していくハスミンは、死神や災害のような人を超えた存在に。キャスティングも秀逸である。
特筆すべき後半の殺戮シーンは、スプラッタでもなく(『死霊のはらわた』や『冷たい熱帯魚』とか)、暴力の多様性を示すネタでもなく(『アウトレイジ』や『ファイナルデッドコースター』のシリーズとか)、痛みがない本当にゲーム感覚の殺しでもなく(『ゾンビ』や『バイオハザード』のシリーズとか)、猟奇的でもなく(『ハンニバル』とか)、韓国映画のようなどろどろとした復讐でもなく、ひたすら単調だ。ただ猟銃を撃つというワンパターンを続け、気のきいた捨て台詞もない。むろん、キューブリックの『時計じかけのオレンジ』やクローネンバーグの粘着的なシーンへのオマージュは少しあるが、徹底的に凡庸で退屈なのが、むしろ画期的だ。三池くらいのベテランなら、普通に映画を撮れば、変化をつけたり、スペクタクルで盛り上げようとするけど、あえてそれを回避している。そのことで日本映画には希有な悪役を造形することが達成されていると思う。
2012/11/25(日)(五十嵐太郎)