2021年09月15日号
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artscapeレビュー

日本タイポグラフィ年鑑 2013 作品展

2013年06月01日号

会期:2013/04/19~2013/05/16

竹尾見本帖本店[東京都]

日本タイポグラフィ年鑑の2013年の入賞作品展。本年のグランプリは中野豪雄氏が手がけた『建築雑誌』のエディトリアルである。日本建築学会が刊行する『建築雑誌』は明治20年から続く「日本最古の建築メディア」で、2年ごとに編集委員と誌面のアートディレクターが入れ替わることになっているという。東日本大震災後の2012年から始まった今期の『建築雑誌』は災害と建築との関係を大きな主題としている。そうしたテーマに対し、中野氏は各号の特集に関連するさまざまなデータを用いたダイアグラムを制作し、それを表紙に提示する。たとえば2012年1月号では、1970年から40年間の東北地方の人口データと地形図とを組み合わせて示し、震災に到るまでの土地と人との関係を描く。2012年2月号では、太平洋の地図上に東日本大震災によって生じた津波の高さ、時間的推移、その影響範囲という三つのデータが重ねられ、時間と空間の両面からその影響を読むことができるようになっている。すなわち、表紙で問題の所在を示し、本文でその解決を議論するという構造になっているのである。この手法は、中野氏がデザインを手がけた「世界を変えるデザイン展」(東京ミッドタウン・デザインハブ、2010年5月15日~6月13日)に共通する。「世界を変えるデザイン展」は、途上国における多様な問題をデザインによって解決しようというプロジェクトであった。会場入口に掲げられたダイアグラムには、八つの課題別に地域・人口・所得・問題の程度の四つのデータがひとつの座標軸に示されたダイアグラムが提示されていた。すなわち、これから会場で見るプロダクトが対峙する課題、対象となる地域の世界における位置づけ、日本との比較などを可視化するものであった。
 ダイアグラム・デザインの多くが情報を削ることでわかりやすさを実現しようとしているのに対して、中野氏は逆のアプローチをとる。ひとつの座標に重なり合った複数の情報のレイヤーは、多様な視点、組み合わせでデータを読むことを可能にする。読者は見るのではなく「読む」という能動的な理解を求められることで、その奥に広がる情報や議論への参加をうながされるのだ。[新川徳彦]


左=『建築雑誌』2012年1月号(日本建築学会)
右=同、2月号

2013/05/10(金)(SYNK)

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