2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

黒沢美香(振付)、上村なおか+森下真樹(ダンサー)『駈ける女』

2013年06月01日号

会期:2013/04/27~2013/04/29

スパイラルガーデン[東京都]

ゆったりとしたらせん状の階段の中程に座して、階段がぐるりと囲む丸い空間を見下ろしながら、公演中ずっと考えていたのは、黒沢美香のダンスは振付に還元できないなにかなのではないかということだった。上村なおかと森下真樹という10年以上のキャリアを積んできた2人のダンサー・振付家が黒沢美香の振付を踊る。コンテンポラリー・ダンスを10年以上ウォッチしてきた筆者のような者にとって、これは間違いなくワクワクさせる企てだ。事実、長身に見えるスレンダーな2人が薄赤い皮膚のような衣裳を纏って、円形の舞台をぐるぐると駈け回る冒頭あたりまでは、「薔薇の人」(黒沢が長年続けてきた、ときに恐怖を催すほど奇っ怪なダンス公演)シリーズが黒沢ではないダンサーによって上演されているかのような錯覚に陥り、興奮させられた。けれども、かなり早い時点で、あれ?と思い始めた。いかにも黒沢らしい振付が繰り出されてはいるものの、それが黒沢のダンスに見えない。森下のダンスは、中学校の教室にいる面白い女の子のような愛嬌がある。不意に見せる仕草につい笑みがこぼれる。それはいわば、あらかじめとらえておいた観客のなかにある笑いのツボを刺激しようとする「昨日」のダンスだ。不意にそんな言葉が浮かんだ。ならばどうだろう。即興を重視するところのある上村のダンスは、いまを感じながら、いまの身体を反省し進んでいく「今日」のダンスとでもいおうか。さて、そうとらえてみたうえで考えると、黒沢のダンスは「昨日」とも「今日」とも違う。あるいは、理想へと向かって邁進する類の「明日」のダンスでもない。あえていうならば、それは「明後日」のダンスだ。思いがけないところに確信をもって突き進む、乙女チックで不思議ちゃん的な、瑞々しいステップだ。黒沢独特の瑞々しい、なにか「はっ」と気づいたら見ているこっちが気絶させられていたとでもいおうか、そんな異次元トリップの感覚はこの舞台にない。いつも通り森下は「昨日」を、上村は「今日」を踊り続ける。振付は確かに黒沢的テイストが込められているのだが、2人の踊りは黒沢のエッセンスと向き合っているように見えなかった。もちろん、黒沢の物真似をすればいいということではない。とはいえ、「明後日」と「昨日」が、「明後日」と「今日」がどう響き合うのか、そこはこの公演の最大のポイントであろうし、少なくともぼくはそこになにかが凝らされているものと期待したのだ。いや、簡単な話だ。森下と上村が、黒沢のダンスをどう受け取り、どう解釈し、どう愛したあるいは憎んだか、それが知りたかったのだ。そこがぼくにはぼやっとしか見えなかった。


POWER OF ART DANCE SERIES VOL.2 上村なおか 森下真樹「駈ける女」

2013/04/28(日)(木村覚)

2013年06月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ